水島広子代表質問(7/31)

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2000年7月31日

第149回臨時国会〜森首相の所信表明に対する代表質問

民主党・無所属クラブ 水島 広子
(はじめに)

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、森総理の所信表明演説に対し質問いたします。はじめに、有珠山や伊豆諸島における噴火・地震により亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被災者の皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。

 今の日本の社会において、子どもの問題がかなり深刻であるということは、私も総理と同じ見解を持っております。私は精神科医として、問題行動を起こす子供たちを数多く治療してきた経験から、日本の将来に非常な危機感を感じております。それが、精神科医である私が政治家を目指した最大の動機でもありました。少年犯罪についても、加害者に対する更正システムを専門化し徹底すると同時に被害者のケアを充実するといった課題に目をむけずに、少年法を改正することで安易に厳罰化を図ろうとするような政治の姿勢には大きな危惧を抱いております。


(いじめの問題)

 総理は、所信表明演説の中で、「教育の新生」について述べておられました。
 しかし、その具体的内容を見ると、あまりにも形式的・表面的なことばかりに思え、今、子供たちの教育の場に最も必要とされている視点が欠けているように思えてなりません。精神科医として現場で子供たちや親たちと向き合ってきた私の目には、総理のおっしゃるような教育改革で問題が解決できるとは、とても思えません。

 総理は、なぜいじめの問題が解決されないばかりか、年々悪質化していると思われますか。 

 いじめというのは、自分と違う他人の存在を受け入れることができない結果起こるものです。人間の多様性を認められない排他的な行動とも言えます。いじめの問題を根本的に解決するには、人間の多様性を尊重して、自分も他人も大切に出来る子供を育てる教育が不可欠です。教育勅語の復活を期待するような発言や、問題を起こした子供たちに「便所掃除をさせろ」と発言されたことなどを考えますと、また、今回の所信演説を聞いても、どうも総理は単一の価値観を押しつけようとしている気がしてなりません。

 教育基本法の見直しにしても、本来、他者とのふれあいを通して自発的に育てるはずの奉仕の精神や道徳心といったものを、法改正によって一方的に押し付けようとするのであれば、逆効果となり、取り返しがつかないことになると思います。押し付けるのではなく話し合って考えさせるのが教育だと思いますが、総理のお考えはいかがでしょうか。


(選択的夫婦別姓制度の導入)

 自分と異なる他人を尊重できる子どもに育てるには、まずは大人社会を、多様性が認められるような社会にしていかなければならないと思います。今の日本社会は、「単一の価値観」の押しつけに満ちあふれています。その代表的な例が、結婚したら夫婦は同じ名字にしなければならない、とする民法の規定です。

 夫婦のこと、子供たちのことは、基本的にそれぞれの家庭で責任を持って決めていくべきことです。ある夫婦にとって一番良い方法が、別の夫婦にとっても一番良いとは限りません。自分たちにとって不本意な方法を強いられた結果、心が不健康になって子供を虐待してしまう、そんな親や子供たちを治療してきた経験から、私は、家族のあり方を一つの枠にはめ込もうとする法律は弊害のほうが大きいと思います。

 私自身も夫とは別の名字を名乗っています。そして、通称使用している私の夫が、自分の名字を守るために、必要なときに離婚届を提出し、数日後に用事が済んだら、また婚姻届を提出するという、ペーパー上の離婚・再婚手続きを行っています。このことが先日「3度の離婚歴がある」などと報道されて騒ぎになりました。たとえ書類上のこととはいえ、離婚届という手段を選ばなければならないことは、円満な家庭生活を営んでいるものとして、極めて不本意なことです。役所の手間もかかります。一方では、同じ名字の夫婦であっても、完全に崩壊している家庭もあるわけで、名字が同じか否かということと家庭の円満とは何の関係もないということは夫婦別姓を認めている諸外国のデータからも明らかです。

 民法の改正は、別姓夫婦の利益のためだけではなく、あらゆる人々が他人の価値観を尊重しながら生きていくという、人間としての基本的な考え方の確立につながるものだと思います。「国民の同意が得られていない」などという理由で今までも見送られてきたようですが、多様な価値観を尊重できる社会づくりのために、まずは率先して法改正するのが政治の役割だと思います。

 夫婦はみな同じ名字にするというのは、明治維新に西洋のまねをして導入された制度であり、日本独自の伝統とは何ら関係がありません。また、先進諸国のうち現在でも選択的夫婦別姓を認めていないのは日本だけです。男女共同参画社会の実現を所信表明演説でもうたわれた総理は、希望する夫婦には夫婦別姓を認めるよう民法を直ちに改正することについて、どのようにお考えでしょうか、お尋ねします。


(非嫡出子の差別の撤廃)

 今の民法には、もう一つ重大な欠陥があります。それは、非嫡出子、つまり法律上結婚していない母親から生まれた子供に対する差別を明文化したものだということです。どういう事情で生まれてきた子供であっても、子供には何の罪もありません。当事者である大人たちが取らなければならない責任と、子どもに対する処遇とは、まったく別の次元の問題として法律上も区別すべきです。

 非嫡出子は、法律上、相続の時に差別を受けるだけでなく、普通に社会生活を送る上でも、就職や結婚の際に差別を受けています。そうした、ある立場の子供に対する生まれながらの差別を正当化するような大人社会のあり方が、いじめなどの根本的な原因になっているのではないでしょうか? 非嫡出子の差別をやめるように直ちに民法を改正することについて、森総理のお考えを伺いたいと思います。


(子供たちを有害情報から守るための立法の必要性)

 総理ご自身も触れられている「大人社会のあり方」ですが、これが子どもたちに大きな影響を与えるのは事実だと思います。子供たちは、大人のまねをして成長します。大人社会のモラルがこれほど低下した今の日本で、子どもたちのモラルだけが高まったらむしろおかしなことだと思います。

 モラルの低下の一つの例として、子供の目に触れる、テレビや雑誌、ゲームなどの影響も無視できません。誰でも簡単に目にするメディアに暴力や性暴力が氾濫し、街じゅうに売春情報が溢れているというのが今の大人の社会です。子どもたちを批判する前に、総理ご自身も含めて、私たち大人がまず反省すべきではないでしょうか。

 子どもたちの問題行動と、メディアによる有害情報の関係を指摘する専門家はたくさんいます。仮に犯罪に直結しなくても、幼い頃から有害情報に当たり前のように触れることが、子どもたちの精神面の発育に及ぼす影響は無視できません。

 諸外国でも進められているように、子どもたちを有害な情報から守る法律を、日本でも早急に作る必要があると思います。これはもちろん、国家による検閲というような形をとるべきではありません。例えば、子どもにとって有害な情報であるか否かを親が判断して選べるようなシステム、また、町なかでも、子どもが有害情報に触れるのを防ぐような社会的なバリアを作るなど、地域社会の大人たちが子どもたちを守るようなシステムを作るべきだと思います。子どもを有害情報から守るための立法の必要性について、森総理はいかがお考えでしょうか。


(コミュニケーションの見本を示せる国会運営について)

 私は、精神科医としての経験の中から、人生の質を決めるものはコミュニケーション能力であると思っています。自分の意見を言い、相手の意見を聞き、お互いに納得のできる結論まで話し合える能力、それが人生のあらゆる場面で必要とされる能力であり、相手への思いやりや社会のルールを学ぶために必要とされる能力であり、また、国際社会の中で日本人に特に欠けている能力でもあります。

 私は教育改革もコミュニケーションを重視したものであるべきだと思います。また、日本中の誰もが注目している国会という場こそ、良いコミュニケーションの見本を子どもたちに示すべき場だと思っています。

 しかし、最近の国会運営を見て、民主主義とは話し合いよりも多数決で押し切ることだという誤った理解をしている人たちが増えているように思います。言論の府としての国会の威信を取り戻し、子どもたちにコミュニケーションの見本を示せるように、ぜひ私たち野党と十分な話し合いをして、途中でキレたりせずに、お互いに納得のできる結論に達するまでの辛抱強さを見せていただきたいと希望します。

 民主主義とは、少数意見をいかに尊重できるか、そのためにコミュニケーションを尽くすことだと思います。まずは党首討論を毎週行うことで総理自ら模範を示されるべきだと思いますし、あわせて、各大臣についても同様な場を設けるべきだと思いますが、総理のお考えをお願いいたします。


(小児の医療について)

 次に、子どもの医療について質問させていただきます。今、日本の小児科医療は危機に瀕しています。患者数が少ない、大人の医療と比べて儲からない、手間がかかる、などという理由で、小児科医の数が減り、医療の質の低下、小児科医のますますの激務につながっています。小児科救急の不備のために命を落とした不幸な子どもの例も多数報道されています。また、心を病む子どもに対しては、大人を中心とした医療体系では対応しきれません。

 小児の医療は、国の将来を担う貴重な人材を社会全体で守るという発想で行わなければいけないと思います。国が特別な予算枠を確保し、良質な医療を提供すること、また、数少ない小児科医を効率的に活用するためにも、各都道府県に子ども病院を作り、人材を集中させ、包括的・専門的な子ども医療ができるように国としても取り組むべきだと思いますが、いかがでしょうか。

 現行のように各都道府県の自助努力に任せていると、未だに全国で19都道府県にしか子どもの総合医療施設がありません。そして予算不足を理由にいつまでたっても達成されないと思います。これらの問題は、かなり緊急性があると思われますが、総理ならびに厚生大臣のお考えをお聞かせください。


(歳費の日割り)

最後に、私は選挙で当選した6月25日からの任期であるのに6月分の歳費が満額いただけたことに驚きました。なぜ働いていない24日分に国民の税金が支払われるのか、何か正当な理由があるのでしょうか。永田町の常識は国民の非常識と言われていますが、永田町は日本の縮図だと思います。まずは永田町から日本のモラルを直していくためにも、歳費を日割り支給にするように直ちに法律を改めるべきだと思います。この点での総理のご意見をお願いして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。




内閣総理大臣答弁


〔内閣総理大臣森喜朗君登壇〕

○内閣総理大臣(森喜朗君)初めて当選をされて、率直な御意見を発せられたわけでありますが、感銘深く拝聴いたしました。

 いじめについてのお尋ねでありますが、いじめ問題を解決するためには、弱い者をいじめることは人間として絶対に許されないとの認識のもと、奉仕活動や自然体験活動などを通じて、子供たちに、命を大切にし、他人を思いやる心など、基本的な倫理観をはぐくむことが重要であると考えております。学力だけに偏ることなく、個性豊かで、体育、徳育、知育のバランスのとれた全人教育を推進してまいりたいと考えております。

 教育基本法についてのお尋ねでありますが、教育基本法は、制定以来半世紀を経ております。抜本的に見直す必要があると考えております。今後、教育改革国民会議において、例えば我が国の文化や伝統を尊重する気持ちを養う観点や生涯学習時代を迎える観点、あるいは教育において家庭や地域が果たすべき役割といった観点を初め、さまざまな観点から幅広く議論を進めていただきたいと考えております。

 民法改正についてのお尋ねがありました。
 まず、これは法律的には選択的夫婦別氏制度と言います。
 この導入についてのお話でありますが、これは婚姻制度や家族のあり方に関連する重要な問題でありまして、国民や関係各方面の意見が現在分かれている状況にありますので、国民各層の御意見を幅広く聞き、また、各方面における議論の推移も踏まえながら、適切に対処していく必要があるのではないかと考えております。

 また、嫡出でない子の法定相続分等についてでありますが、民法上、嫡出でない子と嫡出である子の相続分に差異が設けられている点の解消につきましても、選択的夫婦別氏の問題と同様に、国民や関係各方面の意見が分かれている状況にありますので、国民各界各層の御意見をこれも幅広く聞くなどいたしまして、適切に対処していく必要があると考えております。

 テレビや雑誌、ゲームなどの青少年を取り巻く環境について、暴力や性犯罪がはんらんしており、青少年にとって大きな問題であるとの御指摘でありますが、これらの問題は、申すまでもなく大人社会の責任であります。青少年を取り巻く社会環境の改善のため、社会が一体となった取り組みを進めることが極めて重要であると考えております。

 また、子供たちを有害情報から守るための法律の早急な制定を促す御意見をいただきました。私は、かねてから、少年非行対策は与野党対立案件にあらずと考えておりますが、御指摘の点については、まさに議員と意見を一にするものであります。しかしながら、この種法律の制定につきましては、青少年をめぐる環境の浄化の基本的なあり方や表現の自由とのかかわりなど、国民的な合意の形成が必要であると考えられ、関係方面の幅広い議論を重ねていきたいと考えております。

 国会における議論のあり方についての御質問がありました。
 私は、多数決の原則とともに、よりよい結論を導き出すために、議員同士が討論を重ねることは議会政治の真髄と言えるものであると考えております。積極的に議論を闘わせることは、最終的には多数決で決するにせよ、国民の前に争点を明らかにし、国民の政治への関心を高めるために重要なことであると考えます。
 お尋ねの党首討論のあり方などの国会の運営に関する問題につきましては、国会において御議論をいただきたいと考えます。

 小児医療についてのお尋ねでありますが、医療は、安心して子供を産み、健やかに育てる基礎になるものとして重要と認識しております。このため、小児専門の救急医療体制の整備、診療報酬における小児医療の適切な評価、小児医療施設の整備の補助などを行っているところでありますが、今後とも適切な対応をしていきたいと考えております。
 国会議員の歳費の日割り支給についてのお尋ねでありますが、国会議員は国民の代表者であり、どのようなあり方がそれにふさわしいかとの観点から国会で御議論をいただく問題であると考えております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。



〔国務大臣津島雄二君登壇〕

○国務大臣(津島雄二君)水島議員の小児医療についての御質問に対しましては、総理から、安心して子供を産み、健やかに育てる基礎として小児医療の充実は極めて重要であるという御答弁がございました。

 私から若干補足させていただきますと、こうした認識に立ちまして、厚生省といたしましては、小児・周産期の医療のナショナルセンターとして、国立成育医療センターを平成十三年度までに整備するということ、それから、新エンゼルプランに小児専門の救急医療体制を全国的に整備することを盛り込むということ、平成十二年度の診療報酬改定におきまして、小児入院管理科、入院基本料に対する乳幼児加算の新設などを行った、こういう支援を行ってまいりました。

 また、各都道府県におかれても、国と連携し、地域の小児総合医療施設を整備しつつあると承知しておりますし、水島委員御指摘のとおりであります。国としても、この場合、小児の診療棟や専門病院など小児医療施設の整備の補助を行うことといたしております。  さらに、二十一世紀に向けた母子保健分野の国民運動計画であります健やか親子2lを本年中を目途に策定したいと考えており、現在検討委員会において検討しているところでありますが、その中で、小児医療のより具体的な確保策について検討してまいりたいと考えております。

 水島委員の御指摘に対して数々共感できる点がございますので、これからも厚生行政に御協力、御助言を賜りますようによろしくお願い申し上げます。



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