青少年問題特別委員会
(2003年5月29日)


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児童虐待防止法改正に向けての参考人質問




○青山委員長
 次に、水島広子さん。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 本日は、参考人の皆様、お忙しい中、本当に貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。
また、本当に平素より子供たちのために全力でお取り組みをいただいておりますことに、改めて心より感謝を申し上げたいと思います。
 本日、各立場を代表してくださる皆様にお集まりいただいておりますけれども、これで、あとは自立援助ホームの方などの御意見も伺えると、大体トータルに様子を見ることができるのではないかと思っておりまして、またそれは今後の委員会の視察などを利用いたしまして、知識の収集に努めてまいりたいと思っているところでございます。
 私自身も、精神科医として働いてきた立場でございまして、小さなころにさまざまな形で虐待を受けてきた子供たちが、思春期になって、そこでいろいろ心の問題を抱えたあたりを主に診ていた者でございます。
 その虐待は、精神的虐待、また性的虐待はもちろんのこと、ひどい例になりますと、殴られ、けられたあげくに水ぶろに入れられて、上からガムテープで丁寧にふたまでされたというような、そんな体験を持つ子供が、何とか思春期まで生き延びてきてくれて、そしてようやく私のもとに来てくれたなどというようなケースとも直接かかわってまいりました。
 また、もう一方では、子供を虐待してしまう親、虐待してしまいそうな親にもかかわってまいりまして、それは本当に普通に子育てをしている私のような人間とも紙一重のところの話なんだなということを痛感してきた立場でございます。
 中には、本当に確信犯的に、サディスティックに虐待をしている親もごく一部にいることは事実だと思いますけれども、そうでない親も非常に多いのだということから、この問題の解決の手がかりを見つけていかなければいけないと思いましたことも、私が政治の世界に参りました一つの大きな動機でございましたので、ぜひ、今回の審議の中で、本当にしっかりとした議論を尽くしていかなければいけないという責任を強く感じております。
 きょうは、四名の皆様からお話しをいただきまして、ほとんど同じような改正のポイントをおっしゃっていらっしゃったと思います。
 その一つは、親権の柔軟で多様な制約ということでありますし、またもう一つは、虐待した親に対する心理的援助の必要性、また、児童相談所、児童養護施設、また、里親を初めとする関係する方たちの人員をもっと充実させていくということ、それから、この基盤にあります発生予防とそのためのいろいろな施策を講じるという、そのあたりに大体今回の改正のポイントが絞られてくるし、これを一つも落とすことなくきちんと改正しなければいけないんだろうと思っているところでございます。
 そんな中で、少し、これらの必要性、本当に我が事として感じないとなかなか改正というものに全力で取り組んでいくこともできませんので、少し実例をこの場で御紹介いただければと思います。
 まず親権の問題なんですが、先ほどから、親権をちゃんと部分的にあるいは一時的に停止していかないと子供を救えないんだというような趣旨でのお話は実例として挙げていただきましたけれども、もう一つ、現実的な問題といたしまして、私は、虐待される子供たちにかかわっていらっしゃる皆様、身の危険を感じられたことは一度や二度ではないんじゃないかと思います。
それは子供から攻撃されるというのではなくて、引き離された親によって命の危険すら感じさせられるようなことがあると思います。
 子供を虐待している親の中には、当然、飲酒をしてめちゃくちゃな暴行を働くような人もいます。
子供を取り上げられたことによってパニックになって、また自分が親として否定されたようなことで、その自尊心の傷つきでさらにパニックになって、子供を取り返しに押しかけてくるというようなことは日常的なことだと思うのです。
 そんな中で、分離されてしまった親との関係でいろいろと苦労されること、特に身の危険を感じるとか、本当に自分がこの仕事を続けていけるだろうかというような、そんな不安すら感じるようなこともあるかもしれないんですが、そんな実例をもしも教えていただければ教えていただきたく、これは金内参考人、そして福島参考人、坂本参考人、それぞれのお立場であると思います。
また、お仲間の方からお聞きになった話でも結構でございますけれども、ぜひ委員の皆さんにお話しいただけますようお願いいたします。

○金内参考人
 先ほど御紹介しました事例というのはポイントをちょっと絞っておりますので、もう少し詳しく申し上げたいということと、そのほかのケースにありました事例も含めて申し上げたいと思います。
 先ほど、閉じこもってなかなか中に入れなかったというケースがありました、精神的なものもありまして。
その場合に、やはり親がそういう錯乱状態に陥っちゃまずいというので、親を保護すると同時に、我々もその暴力に対して身を守るということで、非常に身構えて複数の人数で行ったりしたこともあります。
それから、実際にゴルフクラブだとかそういうものを持ち出して殴りかからんばかりというときもございましたので、立入調査のときには身の危険を感じることというのは、もうほとんどの場合、ございます。
 そういうときに、我々の立場もそうですけれども、何より子供を安全に確保する、それから、親をそういう状態から切り離して落ちつかせるということで我々対応しております。

○福島参考人
 お答えします。
 いろいろとケースがあるんですけれども、基本的には、虐待をした親たちというのは、いろいろその方の生育歴、背景を探ると、やはり加害者であると同時に被害者でもあるんだなと。
やはり、その人たちとの関係をどうつくっていくかというのは、まさに、カウンセリングの手法ではないんですけれども、その人たちの気持ちにどこまで接近できるか、そこのところも一つなんですね。
 なかなか難しくて、どなられたり殴られそうになったり、そういう場面というのもやはりあるんですけれども、すべての人というのじゃなくて、この人にはこの職員がというような形で対応させる。
そうすると、意外に自分の気持ちもわかってくれる、自分が虐待をしたということを悪いとは思っているけれども、なぜしたのかという気持ちも理解してくれるというようなところがどうも糸口になっているなということで、要するに、それから関係づくりが始まる。
 そこら辺が我々としては一番気をつけている点だというふうに思っておりまして、それがいい方向に進める一歩かなと思って、職員にはそういうふうな形で対応させております。

○坂本参考人
 私ども養育家庭は、やはり児童相談所のもとにやっておりますので、児童相談所が専門的なお立場から、身の危険を感じるような事態になりそうであれば、その前にもう児相がきちっと手を打っていただいているということがほとんどでございます。
 その一つの例ですが、幼稚園のときから女の子さんを受けまして、それで小学校六年生までずっと、とてもかわいがって育てられていたんですね。
里親会にいつもその子を連れていらしていたんですけれども、あるとき、突然そのお母さんだけがいらしたので、何々ちゃんはどうしたのと聞きましたら、お父さんがずっと刑務所に入っていてもうすぐ出てくるので、子供を養育家庭の方に預けていたとは何事だというような、何かその親の方からのいろいろな連絡があって、それで子供さんも里親さんも泣く泣く別れて、児童養護施設の方に行きました。
 それで、先ほども自立支援というお話が出ましたが、自画自賛じゃいけませんが、ここが里親のすごいところじゃないかなと思いますが、そういうふうになった子供にも、児童養護施設に面会をきちっと申し込んで時々会いに行ったり、いつもあなたを見守っているんだよという信号を送っておりました。
 そして、やはりそのお父さんが連絡を入れてきまして、結局、その子がその園から高校卒業ができまして、水商売のような方に行ってお父さんにお金を、お父さんからおどされていたのかわからないのですけれども、とにかく自分が働いた分の何がしかをお父さんの方に毎月出していた。
その間も里親さんは、そういうことを見守りながら、とにかく元気で生きていってほしいという信号を送っておりました。
 それで、やはり子供もだんだんわかってくるんですね。
お父さんが出てきてくれたときはすごくうれしいのです。
生みの親、自分の親というものをすごく大切にしておりますから。
でも、実際にお父さんとつき合ってみると、自分の描いていたお父さんと違うじゃないかということがわかってまいりまして、それで今はちゃんとお父さんと離れて、お仕事もそういう水商売じゃなくて幼稚園の保母さんの方のお手伝い。
資格がありませんので、まだお手伝いしかできませんが。
 そうしてお父さんの方から離れてくると、これは本当に不思議なことに、里親さんの方に近づいてくるんですね。
それで、今は里親さんのおうちに土日泊まったりとか、そういうふうにして交流を続けている、そのような例がございます。

○水島委員
 ありがとうございました。
 本当に子供を守るということを最優先に考えるのはもちろんのことなんですけれども、子供を守るために働いていらっしゃる皆様がきちんと守られた中で仕事ができるような体制をつくるためにも、司法の介入というのはやはり必要なことだと思いますし、何といっても、児童相談所がトータルなコーディネートをしているといっても、恐らく、相談所長さんにすべての権限があると、そこに親が押しかけてきて、何とかしろということになって、非常に難しい。
かえって児童相談所はケアのコーディネートをする立場であって、親に対する何か命令をする立場というのではないというふうに、それは裁判所がやるというふうにきちんと切り離して位置づけていかないと、恐らくお仕事をしにくいのではないかと推察をしております。
 そんな中で、親権の停止のあり方なんですけれども、これは平湯参考人にお伺いしたいと思います。
 本日、資料としていただきましたものの中に、きちんとそのようなことを書いていただいているわけですけれども、その中で、実際に私もこれをこうしなければいけないと思うんですけれども、具体的にどのようにやっていくかということについては本当に検討をしなければいけないと思っております。
 この平湯参考人の資料の中で、「停止の要件や代行者の権限など具体的な内容についてはさらに検討を要する。
なおこれらの制限の戸籍記載についても再検討すべきである。
」というようなことを書いていただいております。
この文章ではここまでですが、この後、平湯参考人として、御自身の私案でも結構ですけれども、こんなふうにするとうまくいくんじゃないかというようなことがもしございましたら、教えていただけますでしょうか。

○平湯参考人
 今御指摘いただいたものは、先ほどの二十項目の提言の中の九項めでございますけれども、親権の制限というのは、広い意味で申し上げると、さまざまな規定の仕方がございます。
 そもそも、親権とは何ができる権利なのかということを規定し直すというのもその一つですし、その場合に、親権という言葉そのものも残すかどうかという大きな問題がございますけれども、親権という言葉を維持するとしても、今申し上げたようなその中身。
それから次に、そういう親権を停止あるいは喪失するという形で規定するというのが二番目。
それから三番目には、親権を喪失もしくは停止という形の規定ではなくて、裁判所が、実質的には制約に当たるけれども、それ以外の決定を出すことによって制約するというのが三つ目にあると思います。
 一については、例えば懲戒権をどうするか。
あるいは、例えば懲戒という言葉を残すにしても、どういう中身を盛り込むかということもございますが、ここでは触れませんで、二番目と三番目について申し上げますと、この二番目に当たるのは、現在、親権の喪失というものしかないというのがございます。
それから、三つ目の分野でいきますと、児童相談所が子供を施設に入れるのについて裁判所が承認するという児童福祉法二十八条の規定がその三つ目になります。
 二番目の親権自体をいじくるということは民法の改正になるということで、これはなかなか、法務省にしましても非常に腰が重いということもございまして、三番目の方法をもっと考えたらいいのではないかという意見もございます。
 例えば、先ほどの医療拒否の場合について言う場合には、医療に関する親権を一時停止するということによって、その停止中の職務代行者を決めて、その方の判断で医療に同意するかどうかを決めればよろしいというのがそうですし、三つ目のやり方にするとすれば、裁判所は、医療を妨害してはならないというような、保護者に対する、親権者に対する命令を出す、決定を出すというふうなやり方もございます。
その辺の方法については、いろいろな先進国の立法などを参考にしながら、十分な議論が必要だと。
 今必要なのは、こういう方法がいいとか悪いとかというだけじゃなくて、こういう事態が実際にある、それについて、それは児童相談所に任せればいいじゃないかというのではなくて、あるいは、お医者さんの判断に任せればいいというのではなくて、例えば法務省なら法務省が、民法を変えるかどうかということも含めて、どうしたらいいのか、どういう制度がこれに対して必要なのかという議論を始める前提としての認識、つまり、これは何らかの制度を変えないといけないという、そういう共通認識をつくるというのが今一番必要なのではないかと思っております。

○水島委員
 ありがとうございます。
全く同感でございます。
また、虐待の問題に対して恐らく皆様も同じような認識をお持ちだと思うんですけれども、今の親権の問題も含めまして、本当にトータルに、どういうふうにしていくのが一番効率的に虐待の問題に対応していけるかということを今回本当に真剣に議論しなければいけないと思っております。
 そんな中で、私は、主に虐待の問題を取り巻く、そういう中での子供の人権を守るためのセンターがやはり各地域に必要だと思っております。
 そこは恐らく、児童相談所が今やっていらっしゃるような機能を持って、さらに裁判所ときちんと連携をして、司法の関与のもと、親には加害者に対するケアのプログラムを受けることを義務づけたり、きちんと子供と親とを分けることができたり、また、一生懸命養育をされている里親さん、あるいは虐待に関する知識が欲しい人は、そこに聞けばいろいろと虐待に関する専門的な知識を聞くことができる。
 そのようなセンターをきちんとつくって、虐待というものにむしろ特化してつくっていくことによって、ほかの子供の全般的な福祉の向上につながっていくのではないかという気もしているわけでございます。
 もう質問時間が終わりますけれども、最後に、一市民として、また一里親としてこの問題に本当に熱意を持ってかかわってこられた坂本参考人にお伺いしたいんですけれども、全国のあちこちの方たちとかかわっていらっしゃって、やはり各地域にそういうセンターのようなものがあると随分事態はよくなるんじゃないかというような印象をお持ちかどうか、お知らせいただければと思います。

○坂本参考人
 ただいま東京都では、子ども家庭支援センターですか、そういう名前ですね、それは二十三区とか市につくるということになっていますし、厚生労働省の方では児童家庭支援センターという名前で、これは全国にある児童養護施設がその地域の中心になって子育てを支援しなさい、そういうことと聞いております。
 それで、私ども里親から理想のお願いを申し述べますと、平湯先生もさっき言ってくださいましたが、日本には母子保健法というすばらしい、よそのの国にない法律がございまして、保健師さんという職業の方がいらっしゃるんですよね。
 それで、去年の九月に、私どもアン基金からアメリカの里親制度を視察に行きましたときに言われたんですね。
よその国から言われて本当に私も恥ずかしいなと思いましたが、三十年ずっと虐待問題をアメリカの国として試行錯誤しながら対応してきた、今三十年たって何に気がついたかというと、発生予防なんだ、それが一番大事なんだ、日本には保健師さんがいるじゃないの、もっとその人たちの数をふやし、その人たちに新生児のお母さんのところを訪問してもらって、特に孤立しがちなお母さん、その条件がきっといろいろあるんだろうと思うんですね。
 そのインタビュー用紙みたいなものもきちっと学者さんたちが工夫なさってつくっていらっしゃるそうです。
最初から疑いのまなざしで言っちゃいけませんので、赤ちゃんお誕生おめでとうございます、お母さん何か困っていらっしゃることありませんかというようなインタビューで導入されるそうですが、日本でも、本当にこの母子保健法を大きく活用していただいて、そうしますと、保健師さんがいらっしゃるところというのは保健所なんですよね。
 ですから、私も頭がなかなか、自分は整理がつかないんですが、その子ども家庭支援センターみたいなところと、保健センターとかと言ってやっているところもありますが、できましたら警察の駐在所の出張所みたいなものを一緒にそこにつけていただいたり、それから、これは本当に夢のようなお話ですが、家庭裁判所が、ああいう立派なところというんじゃなくて、何かそこの地域の、家庭裁判所の出張所みたいなものもそこのセンターにあるというような、複合的なセンターを各地域につくっていただいたらと。
 虐待防止法といいますと、虐待を受けた子供さんのことだけを問題にしていると一般的に思われるんですが、私はそうじゃないと思っているんですね。
このような突出した問題を持っている子供たちの対処ができるような国であれば、今、引きこもりのこととか不登校とかいじめとか、本当に子供たちはいろいろと苦しい思いをしている、その子供たちの助けもそこでできると思っているんです。
 ですから、どうか、その法律の整備をよろしくお願いいたします。

○水島委員
 どうも、貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございました。








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