法務委員会(2002年11月29日)



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心神喪失者医療観察法案について(厚生労働との連合審査会)



○水島委員

 水島広子でございます。
 久しぶりにこの法案に対する質疑をさせていただくわけでございますけれども、通常国会でのこの法案の審議を通して、不可解だったことがだんだんとわかってきたわけでございます。
なぜ政府はこんな形の法案をつくったのかということが私にはどうしても理解できなかったのですが、答弁を伺っているうちにだんだんとわかってまいりました。
 どういうことかというと、日本の行政にはつきもののことだと言えますが、法務省と厚生労働省が、どちらも今までの自分たちの仕事に非があったということを認めずに法案をつくろうとするとこういう形にならざるを得ない。
法務省側は、鑑定の運用に関して問題があるということを認めようとしない。
また、厚生労働省は、諸外国よりも四十年はおくれていると言われている日本の精神医療の現状についての責任を認めようとしない。
足りなかったのは特別な患者さんに対するこの法案だけだったのだというふうにまとめたいために、合理的な説明を求められると矛盾に満ちてくるのだろうということです。
 通常国会での私の質問に対する答弁は、率直に申し上げますと、ひどいものであったと言えると思います。
ぜひ、この国会においての審議の中では、本当にきちんとした正しい答弁をしていただけますように改めてお願いを申し上げます。
 そんな状況の中で、このたび、与党から修正案が提出されたわけでございますけれども、まず、修正案をなぜ提出したのかを改めて提出者にお伺いいたします。

○塩崎委員

 水島委員の方から、今、この修正案をなぜ出したのか、こういうお話でございました。
 我々自民党あるいは与党の中でも、この問題につきましては長い時間をかけて勉強し、そして今回、政府提案という形ではありますけれども、法案になって出てきたわけであります。
そして、審議の過程を通じ、そしてまた、そこに至るまでの我々の党内での議論の中でも、かなり、今お話がございました現状の足らざる点、そしてまた直さなければならない点については、正直言って率直な議論がありました。
ありましたが、今回はこのような形で、とりあえず一歩前進をしようということで政府案として出てきたわけでございます。
 したがいまして、議論の中で政府案に対する批判は真正面から受けとめて、そして、問題点をできる限り明らかにしながら、直せるところは精いっぱい直させていただいて、そして今回、もう一回修正という形で、我々議員の立場から、与党三党で修正をさせていただいたということでございます。
 もちろん、ですから、この中でまだまだ議論がし尽くされていないというところもたくさんあるわけであって、もう言うまでもなく、この重大な他害行為を行った触法精神障害者の処遇の問題につきましては、保安処分の問題から始まって、ずっと長い歴史があって、国会でも平成十一年に附帯決議もあって、やらなければいけないと言われていた。
我々自民党の中でもやっていた。
池田小学校の事件が不幸にして起きてしまった。
これが一つのきっかけとして、またこの議論に加速をさせて、そして今回のことになってきたわけであります。
 今お話があったように、精神医療についても、正直言って本当に随分おくれてきているし、また、医療の中でもこの精神医療というのは特に理解が十分されていない、医療関係者の中でも余り理解がされていない。
こういうことがあるわけでありますので、今回、特に精神医療の底上げということを含めて、今後の課題を明確にしながら、我々の、医療と司法の間で、言ってみれば、あっちだこっちだと引っ張り合いをやっていたんですけれども、やはりここで一つの答えを出して、一歩前進をするというふうにさせていただきたいと思っているわけでございます。
 したがって、今回のこれで終わりだというようなことではない。
これからまたさらに、医療、福祉、精神に関することについて、そしてまた司法の問題も含めて、これをきっかけとして、政府も、そして我々立法府としても議論を進めていく、そんな気持ちで今回の提案をさせていただきました。

○山本委員長

 各委員の皆様、御静粛にお願いいたします。

○水島委員

 それでは、今の塩崎議員の答弁に基づきまして、修正案が提出されたということについて、法務大臣と厚生労働大臣はどのように受けとめていらっしゃるでしょうか。
それぞれお答えいただきたいと思います。

○森山国務大臣

 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによりまして、その社会復帰を促進することが肝要であるというふうに考えておりまして、さきに提案させていただきました政府案は、このような者に対する適切な処遇を行うための新たな処遇制度を整備するため、さきの通常国会に提出させていただいたものでございます。
 政府案につきましては、御審議等を経まして、野党や関係団体の中に反対もございましたことから、今回、与党の方におきまして、これらの御意見等を踏まえた上で修正案を取りまとめられ、提出されたものと承知しております。
 今後とも、この修正案も含め、国会におきまして御審議をいただいた上で、できる限り速やかにこの法律案を成立させていただきたいと考えております。

○坂口国務大臣

 法務大臣と同趣旨の気持ちでございますが、少しだけつけ加えさせていただきたいというふうに思います。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については、今必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることにより、その社会復帰を促進することが肝要であると考えておりまして、先般、政府案を提出させていただき、そして皆さん方からいろいろの御議論をいただいたところでございます。
 こうした皆さん方の御議論がございまして、それを踏まえて与党の方から、今回、修正案を御提出いただいたものというふうに理解をしている次第でございます。
したがいまして、このような御意見を含めまして、今国会で御審議をいただくことを大変光栄に思っております。

○水島委員

 それでは、修正案の各論について伺ってまいりたいと思います。
 今回の修正の大きなポイントは、第三十三条を初めとする条文で、いわゆる再犯のおそれ要件を、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため」入院をさせて、「この法律による医療を受けさせる必要」があると認める場合というふうに直したことです。
 私は、原案の条文は、再び対象行為を行うおそれの予測が可能であることを前提に書かれたものであって、科学的に正しくないということを主張してまいったわけでございます。
リスクの評価というのは、精神科医であれば常にするべきものですけれども、その人がどのような問題行動を起こすのかというのは、病状のみによって左右されるものではなく、ソーシャルサポートの状況ですとか就労状況ですとか、さまざまな因子によって影響を受けるわけです。
そのようなことまで予測をすることはだれにとっても不可能であるわけでございます。
 今回の修正がそのような意見を反映させたものであるのかどうかをここで確認させていただきたいと思うのですけれども、「同様の行為を行うことなく、」というのは、そのような文言が入っておりますのは、精神科医に予測を要求するという意味なのか、それとも、あくまでも同様の行為というのは症状の可能性の一つにすぎず、精神科医に要求されているのは、その時点での治療の必要性の判断、治療のあり方の判断なのか、どちらなのでしょうか。
提出者にお伺いしたいと思います。

○塩崎委員

 御指摘のように、政府案では、この本制度により処遇を行うか否かの要件というのは、心神喪失の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無とされていたわけでありますけれども、これについては、今お話ありましたように、再犯のおそれの予測の可否としての議論がなされてまいりました。
 この政府案の要件では、特定の犯罪行為やそれの行われる時期の予測といった不可能な予測を強いるというような指摘がございましたし、それから、このような者の円滑な社会復帰を妨げることになる現実的かつ具体的なおそれがあると認められるもののみならず、何となく、漠然とそういった危険性のようなものが感じられるにすぎないようなものまでこの制度の対象になるんではないかといった問題があったということだろうと思います。
 したがいまして、今回、今御指摘の点につきましては、この修正案によって、このような表現による要件を改めて、この法律による手厚い専門的な医療を行う必要があると認められることが中心的な要件であることを明確にしたということであります。
それは、今回、御案内のように、裁判官と精神科医たる審判員が一緒に合議体で判断をするということでございます。

○水島委員

 そうしますと、法務省に重ねてお伺いしたいんですけれども、この修正案の手続に基づいて、精神科医、審判員が、この人には今はこの治療が必要だ、この治療が必要でないというふうに判断をして、そして治療が必要なくなったと判断した方が、この法律の制度の枠の外に出て普通に生活を送っている中で不幸なことにまた同じような事件を起こしてしまったというような場合に、この審判員であった精神科医というのは責任を問われることになるんでしょうか。

○樋渡政府参考人

 お答えいたします。
 審判の中で裁判官と協議して、審判員が裁判官とともにそのような決定を下すわけでございますから、通常そういったようなことは考えられないと思います。

○水島委員

 では、今の同じ箇所につきまして、治療可能性との関連についてお伺いしたいと思います。
 原案では、治療可能性との関連が不明確であって、再び同様の行為を行うおそれがあれば、治療の可能性がなくても入院させるというふうにも読めたと私は思っておりますけれども、修正案についてはどうなんでしょうか。
社会復帰を促進するためには治療を受けさせる必要があるというふうに書いているということは、当然、治療可能性がある者を対象としているというふうに理解してよろしいんでしょうか。

○塩崎委員

 結論としてはそのとおりでございまして、今回の要件は、「精神障害を改善し、」として、そしてまた、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるときということになっておりまして、この法律による手厚い専門的な医療を行う必要があると認められることが本制度の処遇を行うための要件であるということを明確にしたわけであります。
 したがって、治療可能性のない者については、医療の必要性が認められないということでありますから、当然この要件には該当しないということで、入院ないしは通院のこの法律のもとでの決定が行われることはないということだと思います。

○水島委員

 今回、第十三条におきまして、裁判官の役割の項が新設をされているわけでございますけれども、これはなぜ新設されたのでしょうか。
また、ここで言う裁判官の意見というのは何に関する意見なんでしょうか。
これも提出者にお答えいただきたいと思います。

○塩崎委員

 裁判官は、当然役割は司法の立場からということで、言わずもがなで書いていなかったわけでありますし、裁判所法の第七十六条というところに、裁判官が評議において意見を述べることは、言ってみれば当然の義務ということになっていたわけであります。
しかし、今回、この法案を政府案の段階で議論するときにさまざまな御批判あるいは御心配が示されて、この合議体の構成員であります裁判官それから審判員のそれぞれの立場というものを明確にすべきではないだろうか、こういう問題意識から、今回、この裁判官の立場というものを明確にしたわけであります。
 そして、何を裁判官が言うのかということでありますけれども、今回、この法律のもとで医療を受けるということになった場合には、当然のことながら、これは強制的に医療を受けていただくということになるわけです。
ということは、人身の自由を奪うということに、拘束することになりますし、また人権上の配慮からも、やはり司法の知見を持った裁判官がそういった点を配慮して判断をするという立場が必要だろうということで、ここを明確にして、裁判官にそのような立場から意見を言っていただこう、こういうことでございます。

○水島委員

 それでは、もともとあったところでございますけれども、十三条第二項の方での精神保健審判員の意見は何に関する意見なのかということを、同様にお伺いしたいと思います。

○塩崎委員

 裁判官は今言ったような立場からということでありまして、今度は、この審判員は、当然のことながら精神科のお医者さんであられるわけでありますが、例えば不起訴になってきたりしたときには一たん鑑定を経てきたりするわけでありますけれども、改めて他の医師に鑑定をしていただくというようなことについての判断を下す、あるいは、自身がやはりさまざまな条件を見て医学的な知見から判断を下すということで、裁判官とは全く違った立場からの意見を述べ、この合議体の中で判断を一緒に下していく、こういうことだと思います。

○水島委員

 今、裁判官と精神科医のそれぞれの意見というのが違った立場からなされるものであるというふうに確認をさせていただいたわけでございますけれども、今回、この医療という観点から附則がつけられたわけでございまして、この附則の内容は当然の内容であるとはいっても、これがどれほどきちんと実現されるのかということについて、いろいろと疑問があるということを言われているわけでございますが、これについての拘束力というのはどの程度あるものなのでしょうか。
絵にかいたもちになりかねないという批判もあるわけでございますけれども、私は、やはり法律にする以上、こうして法的根拠を持たせる以上は、実現させる義務が政府に生じると考えております。
 この法案が成立した場合に、そして現実に社会的入院者が七万二千人いると言われている中で、このような附則がついた法律が成立したとしましたら、厚生労働大臣はそれをどのように受けとめて、現実にどういうことをされますでしょうか。

○坂口国務大臣

 平成十一年の患者調査におきまして、条件が整えば退院可能な方がどれだけあるかということを調査しましたところ、今御指摘になりましたように、約七万二千人という数字が出たわけでございます。
この七万二千人の方々の退院ですとかあるいは社会復帰を促進しまして、我が国の精神保健、医療、福祉全般にわたり水準の向上を図ることが重要であるというふうに思っております。
 今回、この附則に御指摘の条文が盛り込まれたわけでございまして、この問題により力を入れて取り組む必要があるというふうに思っているわけでございます。
こうして条文の中に入れていただきました以上、私たちはこのことを真剣に考え、そして前進をさせなければならないというふうに考えております。
さらに、今後これを具体的にどういうふうに進めていくかということにつきましての計画等を明確にしなければならないと思っておるところでございます。

○水島委員

 もう少し具体的に、この附則の内容を私たちが判断する上で、もう一言お答えいただきたいんですけれども、七万二千人の社会的入院の方たちを何年間で解消するというふうに、この附則から数値目標を立てられますでしょうか。

○坂口国務大臣

 これは前にもあるいは申し上げたかもわかりませんが、今までは一応十年というふうに言っていたわけでございます。
 これから厚生労働省としてやらなければならないことはたくさんあるというふうに思いますが、一つは、ホームヘルプサービスを充実させていかなければなりませんから、在宅生活を支援する福祉サービスの充実を図らなければいけません。
また、グループホームでありますとか福祉ホームでありますとか、住まいの問題が大事になってまいりますから、その整備ということもございましょう。
それから、生活を訓練します生活訓練施設、あるいはまた、地域における生活支援センターといったようなものを整備していかなければならないというふうに思います。
あるいはまた、さらに、時にはまた悪くなられる方もございましょうから、精神科の救急システムの整備でありますとか、あるいは、これは患者さんの側のことではございませんけれども、地域住民の理解の促進ということも欠かせないことだというふうに思っております。
 これらのことをやっていきますと、マンパワーもかなり養成をしていかなければならないというふうに思いますし、私たち、十年というふうに申し上げたわけでございますが、できる限り、その十年よりも早くできれば、それにこしたことはないわけでございますので、これは積極的に進めたいと思っている次第でございます。

○水島委員

 長過ぎるかどうかという議論はさておきまして、とにかく最長十年というのが大臣の公約であるというふうに今伺わせていただいたわけでございます。
 ここで、通常国会での厚生労働省の答弁についてきちんと確認をさせていただきたいことがあるわけでございますけれども、人格障害についてです。
七月五日の連合審査で、我が党の五島委員が「人格障害による心神喪失あるいは心神耗弱状態ということがあり得ると考えているのか」という質問をしたのに対しまして、厚生労働省は、「人格障害のみを有する者につきましては、我が国では一般的に完全な責任能力を有すると解されております。
」と答えられ、また法務省も、一般にあり得ないことと答弁されているわけでございます。
 私は精神医学者としてこの答弁には非常に疑問があるわけでございますけれども、人格障害と一口に言っても、分裂病型人格障害において見られる関係念慮や妄想様観念などは妄想との連続線上にあると考えられておりますし、また、境界性人格障害の診断基準の中には、一過性の妄想様観念または重篤な解離症状も含まれております。
 境界性人格障害の人が、その症状の一つとして一過性の解離状態となり、そのときに重大な犯罪を犯したとしたら、責任能力は問えないと思いますけれども、そのような方は本法案の対象となるのでしょうか。
これはきちんと答弁をもう一度していただきたいと思います。

○上田政府参考人

 人格障害のみを有する者につきましては、我が国では一般に完全な責任能力を有すると解されており、心神喪失等とは認められないため、本制度の対象となることは想定されないものであります。
しかしながら、人格障害の精神症状が著しいため、精神疾患が併発している状態に至り、その疾患によって心神喪失等が認められた場合には、本制度の対象となり得るものであります。

○水島委員

 ちょっと変な答弁だったので、何か専門的な質問になって申しわけないんですけれども、人格障害の症状の一つとして解離状態があるようなときに、それは併存とは言わないと思うんですけれども、今、併存する精神疾患によってというふうに答弁されたわけですけれども、間違っていませんか。

○上田政府参考人

 精神疾患が併発と申し上げました。

○水島委員

 併発ですか。
どっちでもいいんですけれども、それは症状の一つが起こっただけであって、精神疾患が併発したとは言わないと思うんですけれども、ちょっともう一度お願いします。
時間がないので、早くここを通過したいんですが。

○上田政府参考人

 私、先ほどお答え申し上げましたのは、基本的にと申しましょうか、一般的な、基本的なお話をさせていただきまして、人格障害のみ、そして先ほど申し上げました、人格障害者で精神症状が著しいために、何度も申して失礼いたしますが、精神疾患が併発している状態、そういう状態について心神喪失と認められた場合ということでお話しさせていただいております。

○水島委員

 ごめんなさい。
何かこういうことをここで細かく言うつもりはなかったんですけれども、人格障害の症状の一つとしての解離症状があるということは、別の精神疾患を併発しているのではなくて、その人の診断病名というのは、私は、やはり人格障害のみというふうになるはずだと思うんですけれども、もう一度ちょっと答弁をし直していただけますでしょうか。
 ここで要するに私が伺いたいのは、人格障害という診断名しか持っていない人であっても重篤な解離症状を一時的にでも示し得るわけですから、そのときに重大な犯罪を犯せば本法案の対象になるのではないかと思いますので、ということは、通常国会での厚生労働省の答弁は間違っていませんかということを言いたいんです。

○上田政府参考人

 部分的な症状については該当いたしませんで、先ほど私が申し上げましたように、精神症状が著しいためというような状況で申し上げているところでございます。

○水島委員

 答弁になっていません。
 精神症状が著しいために人格障害の人が重大な犯罪を犯した場合の話をしているのであって、きちんとお答えいただけますでしょうか。
その方は、診断名は人格障害だけであっても、本法案の対象になり得るか。
イエスかノーかでお答えいただきたいと思います。

○上田政府参考人

 対象にはなりません。

○水島委員

 話が変わりました。
人格障害の方が、その症状の一つとして一過性の解離状態となって、その解離状態である間に重大な犯罪を犯した場合には、責任能力が問えないときの法案であり、また、治療可能性があるにもかかわらず、この法案の対象にはならないという答弁として理解してよろしいんでしょうか。

○上田政府参考人

 先ほど来私が申し上げていますのは、人格障害者の方で精神障害が合併している方についてと私は申し上げているわけでありまして、ですから、一過性ですとか、そういう部分的な症状については該当しないということで申し上げているところでございます。

○水島委員

 ちょっと時間がもったいないので、これは後日、私が質問できましたら、あるいはほかの方に質問していただいても結構ですけれども、今の答弁は大変おかしい答弁です。
専門家の方もいらっしゃるんでしょうから、人格障害についてもう一度きちんと検討していただいて、もっと正しい答弁をしていただかないと、きょうは質問の時間がもったいないのでここまでにいたしますけれども、今の答弁は本当におかしかったと思います。
 次に質問を続けさせていただきますけれども、矯正施設内での精神医療の質には大きな問題があるということがかねてから指摘をされてきておりますけれども、刑期を終えると同時に措置入院になる人が少なくないことからも、精神医療がきちんと行われていなかったということがわかるわけでございます。
 矯正施設内の精神医療の質については、今回のこの法案の枠の外にあるわけですけれども、これについてはどうされるつもりか、法務大臣にお伺いしたいと思います。

○森山国務大臣

 刑務所や拘置所におきます精神科医療につきましては、刑や勾留の執行機関という枠組みの中でその医療体制を整え、近隣の医療機関等の協力を得ながら、できる限りその充実に努めることが重要であると考えております。
 そのためには、専門的な知識や技術を有する医療関係職員の能力の研さんをさらに図るべく、海外へ派遣いたしましたり、学会への参加をさせましたり等によりまして、最新の知見を取り入れさせるほか、一般職員に対しましても精神科医療に関する知識の啓蒙に一層努めるなど、これまでにも増して精神科医療の質の向上に鋭意努めてまいりたいと考えております。

○水島委員

 ぜひ質の向上はお力を尽くしていただきたいと思います。
例えば、イタリアでは、刑務所の中にその人の主治医とか看護師とかソーシャルワーカーが訪問をして治療ができるというふうに、けさイタリアの方から伺ったばかりでございますけれども、やはり自分がなれ親しんだ治療環境がちゃんと刑務所の中でも受けられるということは、一つ非常に参考にすべき点ではないかと思いますので、ぜひそんな観点からも御検討いただければと思っております。
 また、本法案の中の指定入院医療機関について、今度は厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。
 これについては、もうとにかく質のよいすばらしい医療が受けられる医療機関なんだということを今まで説明されてきておりますし、先ほどからの大臣の御答弁を伺いましても、とにかくよい医療を提供しなければいけないのだという趣旨であると伺っておりますけれども、そんなすばらしい医療機関だとしたら、犯罪を犯さなければ入れないというのはおかしいのではないか。
犯罪を犯していない人は質の悪い医療、犯罪を犯した人は質のいい医療というのはおかしいんじゃないかという批判がかねてからあるわけでございます。
 もっと柔軟に、一般の患者さんも使えるようになった方が、結果として医療の透明性も向上すると思うわけですけれども、今後この指定入院医療機関についてはどういう方向で考えていかれるのか、厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。

○坂口国務大臣

 本制度におきますところの指定入院医療機関につきましては、まず、本制度の対象者に対して継続的かつ適切な医療を行うために計画的に整備をするということになっておりまして、原則としては対象者以外の者を入院させることは考えていないわけでございます。
 しかし、今御指摘になりましたように、それじゃ、一般の精神病の皆さん方はどうするのかというお話があるわけでございます。
これは車の両輪で、一般の精神病の皆さん方に対する問題にも進めていかなければならないというふうに思います。
一番最初に先生からおしかりを受けましたけれども、決して今まで十分であったと思っているわけではございませんで、反省すべきところは反省をしているわけでありまして、ぜひ、一般の精神病の皆さん方に対しますところも充実をさせていかなきゃならない、両方相まって前進をさせていかなければならないというふうに思っております。
 そういうことを前提にした上で、しかし、今回つくりますこの施設、この中が限られたベッド数でございますから、満床になるのか、それともあきが出るのかということはわかりませんけれども、そこへ、一般の皆さん方の中で重症であるいはまた急性で必要な人があるということであれば、それは完全に除外するというわけでは決してないというふうに理解をいたしております。

○水島委員

 今回の修正案では、精神保健観察官の名称が社会復帰調整官に変わっているわけでございます。
これについては、実態が変わらないのに名称だけを変えても仕方がないのではないかという批判が既にあるわけでございますけれども、今回、なぜこの名称を変更されたのかということを提出者にお伺いしたいと思います。
 また、精神保健福祉士は、どんな状況にあっても自己決定を尊重し信頼関係を築く中で精神障害者の権利と尊厳の回復の支援に努めるところに国家資格者としての存在価値があるということを精神保健福祉士協会の方たちもおっしゃっているわけでございますけれども、この本来の役割とこの法案の中で期待されている精神保健観察という役割とが矛盾するということはないのでしょうか。

○塩崎委員

 今回、社会復帰調整官という名前にこの前の精神保健観察官から変更したわけでございます。
一番の理由は、何といっても、そもそも観察をされるというのがいかにも精神障害者に対してどうだろうかということで、この法律自体の目的が、精神障害者の方の社会復帰をさせるということが最大の目的でありますから、やはりそれにふさわしい名前にすべきじゃないだろうか、こういうことで社会復帰調整官という名前にさせていただいたわけでございます。
 今、本来の役割と今回の役割との関係はどうなんだという御質問でございますけれども、基本的には、やはり地域社会における障害者の社会復帰に向けてのコーディネーターとしてPSWの方に働いていただこう、こういうことでありますから、本来の役割と今回の役割が相入れないということは全くないというふうに思っているわけでありますし、あらゆる面で、このような立場になられた精神障害者の処遇につきましては、非常にプライバシーにも配慮しながら、地域へ再び溶け込むことができるようなことをよく考えていかなきゃいけないということで、今回、この観察所は、保健所とか地域保健センターとか、そういうところとのコーディネーターの役もするということになっていますから、そんな中において、PSWである社会復帰調整官が本来の役割を担いながらこの新しい仕事をしていただくということで御活躍をいただきたいというふうに思います。
 今までの措置入院での一番の欠点は、退院をしたけれども、後の医療が必要であるにもかかわらずきちっと医療を受けないということを、私も地元で精神科の先生方から本当に悩みとして聞くことがよくありました。
そういうことがないように、きちっと医療に通院をしながら、また、復帰できるような形になるためにも、この調整官には頑張っていただきたいなというふうに思っております。

○水島委員

 確認の質問でございますけれども、精神保健福祉士の主管でございます厚生労働大臣といたしましても、本来の仕事の役割とこの法案の中での役割が矛盾することはないとお考えになっていらっしゃいますでしょうか。

○坂口国務大臣

 今提案者から御説明のあったとおりでございまして、矛盾するものではないというふうに思っております。
 この法案の対象者の円滑な社会復帰を図りますために、先ほどもコーディネーターというお話がございましたが、コーディネーターとして対象者本人と接触を保ちながらさまざまな機関との連携協力体制の整備等を行っていくためには、この精神保健福祉士は欠かせない存在であるというふうに思っている次第でございます。

○水島委員

 また、この法案に関しまして、現在、重大犯罪を犯した人で、検察まで至らないうちに警察段階で二十四条通報されている人というのがいらっしゃるわけですけれども、この方たちは、要件を満たせば必ずこの新法の対象になるのかどうかということを確認させていただきたいんですけれども。

○樋渡政府参考人

 精神保健福祉法第二十四条に基づきまして警察官が都道府県知事に通報した者でありましても、その者が対象行為を行った者であり、それが被疑事件として立件送致され、本法律案第二条第三項に該当する場合には、本法律案の対象者となると思います。

○水島委員

 また、もう一つ現状について確認させていただきたいんですけれども、簡易鑑定で不起訴となった後に、医療機関に行きましてから、そこの医師によって責任能力が認められるのではないかと判断されたようなケースがもう一度刑事手続に乗りにくいということを現場の精神科医の方たちから私はよく聞くわけですけれども、これはどういうふうになるんでしょうか。

○樋渡政府参考人

 不起訴処分といたしました事件の再起につきましては、法令上の制約があるものではございませんで、お尋ねの場合、検察当局におきましては、その医師の意見等を考慮し、詐病等の事実が疑われ、再捜査の必要があると判断した場合などには、再度刑事事件として取り上げることとなるというふうに承知しております。

○水島委員

 司法と精神医療のそこの連携について非常に現場でうまく運用されていない点が多々ございますので、そこについてはぜひ法務省としてもきちんとした御指導をいただけますように、現場の医療機関が困ってしまわないように、それを改めてお願いを申し上げます。
 また、私たちが提出をしております民主党案では、鑑定センターの設置をして鑑定の適正化を図ることを考えているわけでございますけれども、鑑定の適正化ということに関して、法務省と厚生労働省はそれぞれ何をされるつもりであるか。
これは両大臣にお答えいただきたいと思います。

○坂口国務大臣

 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者についての適切な処遇を決定するためには、まず、今御指摘になりましたように、責任能力の鑑定が的確に行われることが肝要でございまして、この問題を含めた司法精神医学の研究基盤をしっかりと構築をして、全体のレベルアップを図っていく必要があると考えております。
 そうしたことを踏まえまして、来年度から、国立精神・神経センターに司法精神医学に関する研究部を設置いたしまして、そして診療部門との協力のもとで、臨床疫学、社会学、心理学などを合わせた総合的な観点から司法精神医学の研究を行う予定でございまして、御指摘の課題につきましても真剣に取り組んでいきたいと考えております。

○森山国務大臣

 事件の捜査処理に当たりまして必要となる精神鑑定につきましては、事案の内容や被疑者の状況等に応じまして、適切な手段、方法を選択する必要があると考えております。
 この関係で、簡易鑑定というのがございますが、これは従来適切に行われてきたというふうに考えますが、またさまざまな御意見があることもございまして、さらにその適正な運用が行われますように努力したいと思います。
 専門家の御意見等も踏まえながら、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医などをも加えた研究会等においてこれを活用すること、検察官等に対していわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、また、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるよう運用を検討することなどの方策を講ずることを検討したいと考えております。

○水島委員

 私たちは鑑定センターをぜひ設置していただきたいということで、これはまだお願いをしたいわけでございますけれども、いずれにしても、そこで期待されている機能について、今御答弁いただきましたような内容を本当に積極的に推進をしていただけますようにお願いいたします。
 最後に、この修正案の提出者に確認をさせていただきたいわけでございますけれども、今回、第一条の第二項がつけ加わりまして、円滑な社会復帰に対する努力義務という項目がつけ加わったわけでございます。
 これについては、こんなものをつけても法律の本質が変わらないではないかというような意見もあるわけですけれども、確かに、この努力義務規定がつけ加わることによって、おまえはどうせ社会復帰などできるわけがないなどというような偏見に満ちた発言は関係者には許されなくなると私は思っておりますし、この第一条の第二項の内容を否定するものではないわけでございますけれども、このような第二項がつけ加わったとはいっても、第一項の目的が修正されていない以上は、この法案の目的は再犯の防止であるということは変わらないということを指摘されている方たちが、そういう不安の声があるわけでございますけれども、この点について、最後にきちんと提出者にその心をお伺いしたいと思います。

○塩崎委員

 今回、第二項にあのような形で改めて関係者の責務を書かせていただいたのは、さきの国会での議論の中でさまざまな御疑問、御心配が出てきたからこそ加わったものの一つであって、やはりその精神が一番大事だということで、そのようなことを改めて書いたということでございます。
 そして、もちろん、我々党内で議論したときも、そして今でも、これが社会防衛を目的としたものでは決してないということで、特に今回は、医療に当たっていただくことによって社会復帰が早くできるようにということが最大の眼目だということでありますので、継続的な、そしてまた高度な医療を受けて早く社会復帰をしてもらうということで、決して社会防衛のために閉じ込めるというようなことではないし、そのための手だては、水島議員も御案内のように、いろいろな形で、必要になれば出られるように申し立ても早くするとか、そういうことをずっと加えたつもりでございますので、そのようなことではないというふうに言わせていただきたいと思います。

○水島委員

 本日、今四十五分間いただいて質問してまいりましたけれども、本当に表面的にざっとこの修正案の内容を確認させていただくような質問しかできなかったわけでございます。
さらに踏み込んで伺いたい点、またさらにきちんとはっきりさせておかなければいけない点も多々ございますので、ぜひ、この国会、会期末も近くなってきておりますけれども、きちんと審議時間を確保していただいて、十分な審議を尽くしていただきたい、そして日本の精神医療が確実に前進していく、そんな結果につなげていただきたいということを改めてお願いを申し上げまして、質問を終わらせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。




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