法務委員会
(2002年11月20日)




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「少年犯罪と虐待の関係」、「逸失利益の男女差に」などについて




○園田委員長代理

 水島広子君。

○水島委員

 水島広子でございます。
 短い時間ですけれども、まずは法務大臣に少年犯罪についての質問をさせていただきたいと思います。
 ちょうど約二年前に、国会におきまして少年法改正の審議が行われまして、その時期、非常にこの国会内において少年犯罪というものが大きな話題になったわけですけれども、それですべてが終わったわけではなく、今も子供たちはまだまだ大変な状況に置かれているわけでございます。そのような視点から質問をさせていただきたいと思いますが、まず、矯正処遇のあり方を考える上で、どのような子供たちが少年犯罪を起こすのかという基礎データは極めて重要だと思っております。少年犯罪の背景について、二年前に法務大臣に質問しましたところ、極めて主観的な答弁しかいただけなかったというふうに記憶をしておりますが、その後、法務省として少年犯罪を起こした子供の特徴についてどのような把握をされていらっしゃるでしょうか。

○森山国務大臣

 今少年院に収容されている少年の特徴を申し上げますと、近年では、強盗、傷害、暴行、恐喝といった凶悪で粗暴な非行を犯した少年が増加傾向にございます。また、集団で非行を犯した者も増加しております。また、少年とその保護者等の関係を見てみますと、保護者等からの虐待体験を有する者が少年院在院者には少なくないというふうに聞いております。

○水島委員

 犯罪を犯す子供たちが、みずからが被虐待体験を持っているということはもう随分広く一般的にも知られてきていると思いますし、今の法務大臣の御答弁の中でもそのことが語られていたわけでございますけれども、そのような子供たちの特性に立ってどのような矯正処遇が必要かということを考える必要があるわけですが、二〇〇〇年の十月二十五日の法務委員会で、私は、普通の受刑者が出所後二年以内に再犯で再入所する割合が六三%であったのに対して、アミティという民間の犯罪者更生組織のプログラムに参加して心理学的ケアを受けた人の再受刑率は二六%であったというアメリカのデータを挙げまして、日本の刑務所でもそういうことをするつもりはないのかと質問をいたしましたところ、保岡大臣が、「それはもうもちろん心理学、教育学、あらゆる専門的な知見を活用して創意工夫をして、矯正処遇のより一層の充実を図っていくことは大切なことだ、そう思っております。」と答弁をされております。
 少年院におきまして、被虐待体験の多い子供たちというような特徴を考えますと、ますます精神的なケアは重要であると思っております。子供たちの虐待を受けているというその特徴に基づいて、矯正施設の中で何が行われているのか、あるいは何が必要だと思われているかを御答弁いただければと思います。

○森山国務大臣

 少年院に入院してくる少年に対しましては、今先生が言われましたようなさまざまな教育方法、矯正方法によりまして、少年の改善更生の実を上げるべく、みずからの非行事実に向き合わせて、被害者の痛みや苦しみを理解させる指導などをまず行うところでございます。
 また、先ほど申し上げましたように、その家族にも問題があるということを考えますと、特に被虐待経験を有する少年が少なくないということなどを考えますと、少年の特徴を十分に踏まえながら、例えば自分が親になって築く将来の家庭像を描くような働きかけといたしまして、父親教育とか育児教育などの疑似体験などもさせるというようなこともやっておりまして、いろいろな施設でそんな取り組みを始めているということを聞いております。
 むしろ少年たちの父親、母親等にも考えてもらいたい、むしろ教育を受けてもらいたいという気持ちが私などはするのでございますが、その少年を中心として、心理的な、あるいはさまざまなたぐいの教育をいたしまして、将来自分が親となったとき、将来家庭人となったときにどうあるべきかという姿を、自分の家庭の姿では直接には学ぶことができなかったような子供たちでありますので、そういう面も入れながらやっているところでございますが、今後とも有効な矯正教育を行うように努力していきたいと思っています。

○水島委員

 虐待を受けた子供たちというのは自尊心に致命的な欠陥を持っているわけです。つまり、自分を大切に思えない、自分が生まれてきたということを肯定することもできない、また、自分が生きていくに値する人間だという確信を持つこともできない。そういう自尊心の致命的な問題を抱えているわけでございまして、これは子供たちもみずから言っていることですけれども、自分を大切にも思えないのに、他人のことをもっと大切に思うなどということができるわけがない。これは犯罪を犯した子供たちみずからが語っていることであるわけです。
 そのような観点から考えますと、被害者の痛みや苦しみをどれだけ説明されても、それを実感として、どれだけ重要なことか感じることもできないでしょうし、また、自分自身が人間として生きていこうという意欲も持てないのに、将来の家庭像と言われてもぴんとこないのではないかとも思います。
 きょうは初めて茨城の少年院で被害者の御遺族が子供たちに対して講演をされるというふうに伺っておりますけれども、こういった取り組みは非常に重要であると思う一方で、その受け皿となる子供たちの自尊心が余りにも低いままであると、どんな手だてを講じてもそれが心にきちんと有効に浸透していかないのではないかと思っておりまして、まずは、自尊心に致命的な問題がある子供たちの自尊心を回復させていくということが何よりも重要なのではないかと思っておりますけれども、大臣はどう思われますでしょうか。

○森山国務大臣

 おっしゃるとおりだと思います。少年犯罪対策というものを効果的に進めていきますのには、目に見えたその犯罪の事実だけではなくて、その裏にあるさまざまな背景、原因、事情などを解明しなければならないと思います。
 法務省の研究機関である法務総合研究所におきましては少年非行に関する研究を行っておりまして、例えば平成十二年に、全国の少年院在院者を対象に、被虐待経験の有無などについて調査いたしました。少年院在院者のうち何らかの虐待を受けた経験のある者が約半数に及んでいるということがわかりました。虐待を受けたとき、家出とか、お酒を飲んだり、薬物を使用したり等の問題行動に至る者が少なくないということも明らかになったわけでございます。
 そのような調査の結果報告書を関係各省庁にも提供いたしておりまして、総合的な対策の手助けになればというふうに考えたわけでございますが、また、法務省におきまして、少年犯罪等に関して得られた各種のデータを犯罪白書とか矯正統計年報等の各種統計にも登載して公表しておりますし、関係省庁の緊密な連携のもとに青少年の健全育成及び非行等問題行動の防止に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための会議であります青少年育成推進会議にも参加して、適宜意見を述べているところでございます。
 今後とも、必要に応じまして、少年犯罪等に関する各種データを積極的に提供いたしまして、各方面における青少年行政施策に生かしていきたいというふうに考えております。

○水島委員

 子供の問題で各省庁が密に連携していくということはとても重要なことだと思っておりますし、また、本日いただいた御答弁から察するに、今、矯正施設において、この自尊心の低下ということに関して、そこに集中をした特定のケアがされていないというふうに受け取らせていただいております。法務大臣はその重要性を認識されているという今の御答弁の内容であると思いますので、虐待をされた子供たちに一体どのような働きかけが有効であるのかというようなことは、他省庁、厚生労働省などときちんと連携をしていただく中で、その有効な手段というものを矯正施設の中でも取り入れていくべきだと思っております。
 虐待をされている子供たちが多いから虐待がないようにと周りに働きかけるのも重要な方向性ではありますけれども、虐待をされている子供たちが多いから、どういったことがその子たちを救っていくのに必要なのか、そういう方向性でもぜひ他省庁と連携していただきたいと思いますけれども、その点については再度確認させていただいてよろしいでしょうか。

○森山国務大臣

 先ほど申し上げました各省庁との連絡の中で、それも重要なテーマと考えて努力していきたいと思います。

○水島委員

 また、改正少年法では観護措置の期間が延長されているわけでございますけれども、義務教育年齢の子供たちにとっては、その間また教育が分断されるということがますます挫折体験になっていくというようなことにもなりますけれども、この間の義務教育についてはどのような配慮がされているんでしょうか。

○中井政府参考人

 少年鑑別所におきまして被収容少年に対して義務教育をするということにつきましては、法令上の定めは設けられておりません。さはさりながら、少年鑑別所は少年の身柄を一定期間拘束しているわけでございまして、この事実にかんがみまして、学習を希望する少年に対しては、鑑別実施等に支障が生じない範囲で自習時間の確保に配慮しております。
 また、施設の保有する学習図書や教材を積極的に貸し出すということもしておりますし、学習図書の差し入れ及び居室内で所持することのできる冊子の冊数でございますけれども、これについても配慮しているところであります。
 また、被収容少年が在籍しておりますところの学校の教員の方が面会される際には、その当該教員の方によりまして少年の学習進度を確認したり、あるいはその学習上の個別指導の実施等が可能になるように、面会時間等についても配慮しております。
 さらに、少年の学習機会をさらにふやすと申しますか一層充実する、こういう観点から、教科学習の支援を目的といたしまして学習用のパソコンを貸し出しましたり、あるいは、外部の方の協力を得まして学習に関する助言や指導を得られるなどにも努めているところでございます。

○水島委員

 犯罪に巻き込まれる子供たちを見ておりますと、もちろん家庭的な背景もあると同時に、やはり学業における挫折体験というものも大きな要因であると思っておりますので、さらにこういった中で学業が分断されてますますついていけなくならないように、特段の配慮が必要であると思っております。
 その貸し出されたパソコンがどのように使われているのかとか、ちょっといろいろ細かく気になる点もありますけれども、きょうは時間がございませんので、またこの点についてはしっかりとした御配慮をお願いして、次に進ませていただきたいと思います。
 現在、名古屋刑務所における暴行が問題になっているわけですけれども、医療少年院における暴行事件なども報道されているわけです。四月十一日に、私は、青少年問題特別委員会で、国連子どもの権利委員会による勧告に関連して、少年院の中で子供が教官から暴力的な処遇を受けた場合、どういう申し立て、救済手段があるのかということを質問いたしました。そのとき御答弁をくださった法務副大臣は、家族を通して人権侵犯の申告や民事訴訟あるいは告訴、告発をすることができるというようなことをおっしゃっていたわけです。そのときも指摘をいたしましたけれども、これは大変不十分な答弁だと私は思います。
 先ほどから、家庭環境に問題がある子供が多いということを大臣も答弁されているわけですけれども、家族が家族としてきちんと機能していないから子供が少年院に収容されているという現実もあるわけですので、それを踏まえて考えなければいけないと思いますが、この点について大臣にもう一度御答弁いただけますでしょうか。

○増田副大臣

 お答えをいたします。
 法務本省及び各施設を監督いたします矯正管区によります定期的な監査がまず実施をされております。不適正な処遇が行われている疑いがある場合には、厳正な調査がもちろん行われております。また、被収容少年から、家族などの面会や部外の民間篤志家との面接の際に、不適正な処遇を受けたことについて申し出を行うことは可能であります。請願やあるいは人権侵犯申告、民事訴訟、告訴、告発などの方法もとることもできることになっております。
 少年が不適正な処遇を受けたことについてみずから申し出たような事例ですが、私、保護司をしておりまして、私も観察所で相談を受けたことが何回かあります。そこで、少年院においては、不適正な処遇があった場合、通例、少年が日記に記載したり他の職員に申し出ることにより判明する例が多く、そのような場合には、当該施設において適正に対処しておると思います。
 なお、平成十年から平成十三年の三年間に少年院の処遇について外部に申し立てた件数、御参考でございますが、六件あるとの報告を受けております。
 以上です。

○水島委員

 子どもの権利委員会の勧告の中には、設備及び記録への全面的アクセスや査察の確保、抜き打ちの訪問、子供及び職員との秘密の話し合いを持つこと、苦情の申し立ての手段が確保されていること、そして、子供がその存在及び運用について十分に情報を提供され、かつ承知していることなどが盛り込まれているわけで、これは当然少年院においても守られるべき内容であると思っております。
 また、虐待された子供たち、大切にされた経験のない子供たちだからこそ、きちんと少年院の中で人権が守られているのだというような特段の配慮が必要ではないかと思っておりますので、この子どもの権利委員会の勧告の内容に沿って、少年院ではそれぞれの項目についてこういうふうに確保されていますということを、ぜひまた次回質問しましたときには明確に御答弁いただけるように御準備をいただきたいと思っております。
 最後に、大臣に、逸失利益の問題についてお伺いしたいと思います。
 交通事故などで子供が亡くなった場合の賠償金の算定方法についてはかねてから社会的な議論があるということは、大臣も御存じだと思います。生きていれば将来得られたはずの利益である逸失利益の算定方法が男女で異なるという重大な問題がございます。
 男の子が亡くなった場合には男性労働者の平均賃金、女の子が亡くなった場合は女性労働者の平均賃金に基づいて逸失利益を計算すると、男女の賃金格差が大きい現状を反映して賠償金にも大きな差がついてしまいます。私自身にも娘と息子がおりますけれども、どう考えてもこの子たちの逸失利益に差があるとはとても思えないわけでございます。この問題について、法務大臣はどのようにお考えになりますでしょうか。

○森山国務大臣

 基本的には、男女の賃金格差があるということに問題があるんではないかと思います。統計を見ますと、これは全国の平均賃金格差、男性と女性、女性の場合は男性の六六・二%ということになっているようでございますが、これは、実は私が労働省の婦人少年局長をやっていたときは五〇%そこそこでありましたので、それなりに上がってきたんだなとは思って見たのでございますけれども、一〇〇%対六六・二%ではまだまだ大きな格差がある。そこが基本的に平等にならなければ、今御提起なさったような問題も基本的には解決しにくいという感じがいたします。
 しかし、それを待っていたのではあと何年かかるかちょっとわかりませんが、いずれにしましても、被害者が亡くなった場合の逸失利益というものを算定しなければならないということになりますと、平均賃金というのは一つの大きな材料であることは確かでございまして、それが使用されるということが多数の場合、例があるわけでございまして、場合によっては、区別をしないで、男女両方合わせた全体の平均賃金を使うという例も最近ないことはないようでございますが、そのときのケースの状況によっていろいろの算定方法があるのではないかと思います。
 最初に申しましたように、男女の賃金格差がなくなるというようなことが基本的に重要であると思っています。

○水島委員

 何となく森山大臣らしからぬ答弁だなと伺っておりますけれども、女の子の場合は全労働者の平均賃金でというふうに計算しても、男の子の場合は男性労働者の平均賃金でという方法にしてしまうと差がついてしまうわけですし、また、判決によって、こちらは女性労働者の平均賃金、ある判決では全労働者の平均賃金という方法にしてしまいますと、同じ女の子同士であってもまたそこで差がついてしまう。このように、男だから女だからという理由で命の値段に差をつける、そういう発想そのものが私には全く受け入れられないものなんです。
 自分自身の娘と息子を見ておりましても、どちらの子供の方が将来お金を稼ぎそうかというふうに見ますと、どうもうちの場合は娘の方が稼ぎそうな感じもいたしますし、そのように考えまして、もう一度、これは法務大臣というお立場を捨てていただいて結構でございますので、女性政治家森山眞弓さんといたしまして最後に一言力強い御答弁をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○森山国務大臣

 これは命の値段に差があるというふうにおっしゃられますとまことに理不尽なことだというふうに思います。しかし、何とかして逸失利益を計算しなければならないという必要に迫られていろいろな材料をそろえますときに、平均賃金というのがいろいろな意味で材料になるということはまた否定できない事実だと思いますので、そこのところはやはりケース・バイ・ケースでやるしか今のところないんではないか。基本的には平均賃金が違うということが問題だというふうに重ねて申し上げたいと思います。

○水島委員

 もう時間ですので終わりにさせていただきたいとは思いますけれども、ぜひこういったことも子供の人権上の問題として、法務大臣には毅然とした態度をとっていただきたいなと思っております。
 ケース・バイ・ケースでといいましても、子供の場合、その子が将来どういう大人になるかということに関してはもう無限の可能性を持っているわけでございますので、女の子が、自分が死んだときの方が賠償金が少ないんだなと思うことでどのような感覚を持たされるかということ、また、同じように子供を愛している親からして、それがどれほど悲しいことであるかということをもう一度人権上の観点から御配慮をいただきまして、ぜひ前向きに御検討いただけますようにお願いを申し上げまして、質問を終わらせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。



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