法務委員会
(2002年4月10日)




質問バックナンバー|HOME

在日外国人被疑者の処遇、民法改正(通称使用)について




○園田委員長
 水島広子君。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 まず、在日外国人被疑者を取り巻く現状についてお伺いしたいと思います。
 いわゆる東電OL殺人事件の被告で現在上告中のネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさんは、現在東京拘置所で最高裁の審理を待っています。先日、ネパール人権委員会のカピル・シュレスタ委員がゴビンダさんの事件における人権問題調査のために来日されましたが、この事件は、一審で無罪判決が出た後、本来であれば直ちに入国管理に移されて母国に送還される手順となるはずだったゴビンダさんが勾留された経過の中でさまざまな問題点を指摘されており、現在も、無実のゴビンダさんを支える会の皆さんを中心として社会的に大きな関心を集めているところでございます。
 まず、拘置所の環境についてお伺いいたします。
 ゴビンダさんの勾留期間は先日五年を迎えました。ネパール独特の食べなれた食事もとれず、自分の母国語で自由に意思疎通ができる相手もおらず、独居房で孤独な生活を続けているわけでございます。不眠を訴えておられ、かなりの精神的ストレス状況にあることは疑いようもないと思います。
 まず、拘置所において外国人未決囚に対する特別の配慮があるのかどうかということをお伺いしたいと思います。

○鶴田政府参考人
 お答えいたします。
 日本人と風俗、習慣等を異にする外国人被収容者につきましては、例えば食事の面では、食習慣の違いや宗教上の配慮をした食事を給与したり、また、宗教面では、各自の信仰する宗教の方式にのっとった礼拝とか、教典、数珠などの礼拝用具の使用を認めるなどの配慮をしております。
 また、言葉の問題に関しては、各施設におきまして職員の語学研修等を実施するほか、大使館とか関係機関の協力も得て、外国人被収容者との意思疎通に努めているところでございます。

○水島委員
 そのような御配慮があるとはいっても、現にゴビンダさん御本人が非常に食べにくい食事をずっと食べさせられているというようなことを初めといたしまして、これだけのストレスを訴えておられるわけですので、恐らく処遇の面で不十分な点が多々あるのではないかと思っております。また、ゴビンダさんもかなり心を病んでいるようでございますけれども、精神的なケアも必要であると思います。
 もしも、森山大臣が外国で冤罪で逮捕されて、何年に及ぶかわからない状況で勾留され、日本語を話せる相手もおらず、自分の味覚に合わないものを食べさせられたらというような状況をイメージされて、拘置所における在日外国人の処遇の改善の必要性について御意見をいただければと思います。

○森山国務大臣
 自分の好みに合わない食べ物を食べ続けなければならないというのは大変つらいことだろうと思います。しかし、その国の法律の定めによって拘禁された場合には、自分の置かれた立場上、食習慣の違いというものはやむを得ず受け入れなければならないのではないか、私自身の問題であったとすればそのように思うのではないかと思います。
 一方、お話しの東京拘置所というのは、今非常に過剰収容の時代も迎えておりまして、現在、日本人を含めた収容人数は二千二百九十三人、ざっと二千三百人の人が入っておりまして、そのうち外国人の方は二百九十九人、三百人でございます。国籍別では三十カ国にわたるということで、処遇の方の担当の人も大変苦労をしながら気を配ってやっていると私は承知しております。
 食事について申せば、その人たちに一日三回の食事を食べていただくということでありますので、三百人の人たちの三回分ということでありますから、そのたびに気を配っていろいろ配慮しながら、宗教上の禁じられたものであるとか、その他食習慣によってどうしてもだめなものということは頭に置きながらそれだけの人たちに食べていただくということは、それだけでもなかなか容易なことではないと思いますが、できるだけの対応を行っているのではないかと思います。
 ただ、一人一人の個人がその味が好きであるとか嫌いであるとかということまでは、日本人の場合もそこまではちょっと十分な配慮をするというわけにはいきませんし、そのような状況であるということを御理解いただきたいというふうに思う次第でございます。

○水島委員
 森山大臣御自身がそういう状況に直面されたらということで、その国の法律に従った処遇を受けるのは仕方がないとおっしゃいましたけれども、森山大臣はもちろん人格者でいらっしゃいますのでそのような受けとめ方をされるのではないかと思いますが、私を初めとする一般の者であれば、そこの国の法律を犯したのであればそれは仕方がないと思えるかもしれないけれども、少なくとも、この拘置所という場所は未決の方たちがいらっしゃるところでございます。自分が全くいわれのない罪を着せられてそこに置かれているという可能性も十分に考えられる場所でございます。ですから、その国の法律に従ってということが仕方がないと思えるのかどうか、また、それを他人に強要していいものかどうか、そこには非常に大きな問題があるのではないかと思っております。
 また、今現在もいろいろと御努力されているということでございますけれども、ぜひいま一度、森山大臣御自身が拘置所における在日外国人の方たちの処遇についてできるだけ御本人たちの声を聞けるような機会をつくっていただきまして、もちろん限られた条件であるとは思いますけれども、もう少しでも結構ですので、処遇の改善をしていただければ、少しでも配慮をしていただければと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 また、外国人被疑者に関して問題になるのが通訳でございます。きちんとした事実認定のためにも通訳は重要であると思います。
 今現在、通訳の確保はどうなっているでしょうか。特に、ネパール語のような少数言語についてどうなっているかということをお伺いしたいと思います。

○古田政府参考人
 国際化の進展に伴いまして、外国人による刑事事件が増加しているわけでございます。御指摘のように、適正な刑事手続の実現のためには、有能な通訳人を確保するということは大変大事なことであると考えている次第です。そこで、検察庁におきましても、普段からそういう通訳人の確保にさまざまな努力を払っているわけでございます。
 具体的にはどういうことをしているかということを申し上げますと、実際問題として、今御指摘の少数言語を含めまして、非常に多くの言語が現在やはり通訳が必要になってきている状況でございますので、まず、それぞれの言語につきましてどういう通訳ができる方がいらっしゃるかというデータベースの作成、これを全国規模でやっておりまして、できるだけ広いソースからそういう有能な通訳人の確保ができるようにしているところでございます。
 そのほかに、法務省におきましても、検察庁で通訳をお願いする方に対して研修を実施する、あるいは、いろいろな弁護につきまして、しばしば使われる言葉、あるいは法廷で使われる言葉等につきましての対訳集を作成して、これを利用していただくというふうな、さまざまな努力をしているところでございます。

○水島委員
 今、研修をされているということでございますけれども、もちろん、事件の通訳では、通常の通訳能力に加えて特別な研修が必要であることは当たり前のことであると思います。また、調書は日本語でとられますので、外国語の能力以上に、ある意味では日本語の能力が問われてくるところであると思っております。
 このゴビンダさんの事件のときにも、ゴビンダさん本人は自白はされていませんので、ゴビンダさんのことについての通訳には余り問題がなかったということですけれども、ただ、同居されていたネパール人の方たちから証言をとるときにいろいろな問題があったというふうに聞いております。最終的には、日本ネパール協会から通訳を紹介してもらって、弁護団の方でその通訳をお願いしたというふうに聞いております。
 ぜひ、この特別な研修の必要性、また母国語としての高い日本語能力、そのあたりを考慮に入れていただきまして、そのデータベースを作成されるときにもしっかりとした配慮をしていただければと思っております。
 そうは申しましても、世界には実際に無数の少数言語がございます。そして、すべての少数言語について理想的な通訳を確保するのは、私は、事実上不可能であると思っております。特に、今申しましたような条件を満たすような通訳ということになりますと、世界中の少数言語に対してその通訳者を確保するということは、まず無理ではないかと思っております。
 国際人権規約委員会では、取り調べの全過程を録画ビデオや録音テープで残すべきだということを勧告しております。私は、本来はすべての事件についてそうすべきであると思いますけれども、少なくとも、取り調べの適正を確保するためには、通訳を介した取り調べに関しては録画や録音が必要なのではないかと思いますけれども、大臣はどのようにお考えになりますでしょうか。

○森山国務大臣
 取り調べの録音や録画は、取り調べによって真相解明を図る上で支障とならないかなどのさまざまな観点から、慎重な検討を要する事柄であろうと思います。単に通訳の正確性を検証する目的での録音等は実施されていないものと承知しております。
 しかし、通訳を介した取り調べによって供述調書を作成する際には、単に取り調べ中に取り調べ官との問答を逐一通訳するだけではなくて、供述調書の内容を通訳人を介して供述人に読み聞かせ、供述人からの質問等に対しては通訳人を介して十分に説明をし、補充、訂正の申し立てがあれば加筆などをいたしまして、供述人が内容を十分理解し、かつ間違いないことを確認した上で供述人に署名捺印を求めておりまして、さらに、通訳人にも確認の意味で署名捺印を求める手段がとられております。
 したがいまして、取り調べ状況の録音等をしなくても、通訳の正確性を担保する措置は十分講じられているというふうに考えております。

○水島委員
 そのときに、利用可能な言語で、例えば少数言語が母国語である方に関しては英語などを使ってのやりとりになっている中で、今大臣がおっしゃったような手続は多分されているんだと思いますけれども、そうはいっても、その方本来の英語の能力が果たしてそれだけのやりとりにたえるものなのかどうか。また、そういうときに証言を求められる方は往々にしてオーバーステイの外国人であることも多いわけで、そういうオーバーステイの方が証言を求められてというときの精神状態を考えますと、今言った証言はこれでいいのかというふうに確認を求められたら、はい、そうですと言ってしまうものではないかと思います。
 そのような状況を考えますと、やはり、後で、どういう状況でその証言が得られたのかということをさかのぼって検証することができるためにも、この通訳を介した取り調べ、もしも予算的に無理だということであれば、少なくとも少数言語の場合に関しましては録画や録音が必要なのではないかと私は考えております。ぜひ、この点についてさらに御検討をいただければと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 先ほど大臣は、その国の法律に従ってとおっしゃいました。確かに、法律上の理屈づけでいけばそういうことになると思います。本来は、これは引き渡し条約によってそれぞれの国に返していくということが一番望ましいのではないかと思いますけれども、それを今すぐに全世界規模でやっていくということは不可能であるわけです。
 確かに、日本の法律はこうなっているから、あるいは日本ではこういう手続になっているからというのは、理屈の上では正しいけれども、やはり、日本が世界に恥ずかしくない国になるためにも、日本の司法制度は本当にしっかりしていて、人権にもきちんと配慮がされていたと言われるような国になるべきではないかと思っております。ぜひ、森山法務大臣の任期の間に、この外国人の問題をいま一度見直していただければと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。


 さて、次に、選択的別姓のことについてお伺いいたします。
 私も、たびたびこの委員会でも質問させていただいておりますけれども、この選択的別姓を認める民法改正については、本日も自民党の法務部会で集中審議が行われると聞いておりまして、森山大臣のリーダーシップのもと、今国会で成立することが心待ちにされるところでございます。
 昨年の内閣府の世論調査の結果を受けて、社会的にも法改正への期待が高まっております。でも、世論調査の結果、六五%の人が法改正に賛成というふうに言う人もいれば、まだ過半数が選択的別姓に反対なのだということを言っている人が国会議員の中にもいるようでございまして、これは、主に世論調査の中の、「夫婦が婚姻前の姓を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ姓を名乗るべきだが、婚姻によって姓を改めた人が婚姻前の姓を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」と答えた二三%をどう扱うかという、考え方によるのだと思います。
 本日は、この通称使用という問題について伺います。
 一口に通称をどこでも使えるように法律を改めるといいますが、果たしてそんな立法が可能なのか、うまく機能するのか、いろいろと疑問がございますので、以下、大臣の見解を伺いたいと思います。
 現在、通称使用を認める企業もふえてきており、自治体によっては職員の通称使用を認めているところもございます。また、なかなか民法改正が進まない中、男女共同参画社会の実現への意識向上を図るために、昨年の十月から、各府省庁でも公文書などで旧姓使用を認めることになっております。でも、住民票、健康保険証、パスポート、ビザ、国家資格の取得、運転免許の取得、年金、印鑑証明書、預金口座の開設等、その人が本人であるかどうかを確認する必要がある場合は、通称が法的に位置づけられていない以上、基本的に戸籍名でなければできません。
 まず、この点について法務大臣に御確認をいただきたいと思います。

○森山国務大臣
 私も、すべての場合について一〇〇%把握しているわけではございませんけれども、現状でも旧姓の使用がかなり広く認められるようになってはきておりますが、なお御指摘のような場合には使えないということでございまして、完璧といいますか、一〇〇%問題がないというわけではないということはわかっております。

○水島委員
 そんな中で通称使用を認める法律をつくろうとする場合、どの範囲まで通称使用を認めるかということが常に問題になるわけでございます。
 海外が仕事場になる人の場合、改姓による不利益の回避という観点から考えれば、パスポートやビザまで通称使用を認めるということになります。また、弁護士の場合、通称使用は制度として認められていますが、遺言執行人や後見人になる場合は印鑑証明書が要求されますので、印鑑証明書も通称で取得できるようにしなければなりません。会社の役員が印鑑証明を要求される場面は多いですから、やはり印鑑証明書の問題は避けては通れません。
 こうして考えてみると、多様な職業がある以上、そして職業によって通称使用の権利に差がつかないようにするためには、通称使用をすべての領域にわたって認める必要があると思いますが、大臣はどうお考えになりますでしょうか。

○森山国務大臣
 そのような考え方に基づいて通称を公式にも認められるようにしたいと思ってそのような方向に検討をしていらっしゃるという方もいらっしゃると聞いておりますが、それを突き詰めて考えていきますと、通称と、戸籍上のといいましょうか、もう一つ別の名前と二つの名前を一人の人が公式に使うということになりますので、一見便利なようでありますし、便利な面もあると思いますけれども、場合によっては甚だ混乱を生じ、あるいは、悪く考えれば犯罪にも利用される可能性もあるというふうに思いますので、通称を普通に職場その他で認めていただくということは大変いいことだと思いますけれども、法律上も二つの名前を一人の人が持つというのはいかがなものかと思っております。

○水島委員
 今大臣がおっしゃったように、通称を使用するのであれば戸籍姓を使用することを禁止するのでなければ、一人の人間が二つの姓を使い分けられることになりますし、悪意を持って便宜的に二つの姓を使い分けてしまうと社会は混乱してしまうというのは間違いがないと思います。
 今大臣が、職場などで普通に通称を使用するのは構わないけれども、法律的に位置づけるのはとおっしゃいましたけれども、ただ、法律的に位置づけないと仕事上非常に不利益のある方がいらっしゃるということを先ほどお話をしてきたわけでございます。
 ここでもう一度確認をさせていただきたいと思いますが、社会の混乱を避けるためには、通称使用を法的に認める場合に、特に本人確認が必要な場面では戸籍姓の使用ができないようにせざるを得ないと思いますけれども、いかがでしょうか。

○森山国務大臣
 職場で名前を使うことを認められるのはいいことだと先ほど申し上げましたが、それは、例えば出勤簿の名前とか職場に置く名札の名前とか、そのようなことを申したのでございまして、先生が御指摘になったような、職業上どうしても印鑑証明がたびたび必要だというようなお仕事をしておられる方にとっては、そういう安易なことではいけないんじゃないかと思いますので、やはり一人の人が二つの名前を法律上持つというのは問題があるんではないかと思います。

○水島委員
 また、作成された書類すべてに戸籍姓と通称姓を併記するという方法も提唱されているようでございますけれども、現実に戸籍姓しか持っていない人も多いわけですので、そんな仕組みが日常的にうまく機能するのかどうか大変疑問がございます。また、そもそも先進国で改姓を強制する法律を持っている国はないわけですから、両姓併記というのは国際的にも大変わかりにくい制度ではないでしょうか。そして、そんな制度を認めてしまうと、日本社会のみならず国際社会にも混乱を来してしまうのではないかと思いますけれども、この両姓併記という問題について大臣のお考えを教えていただきたいと思います。

○森山国務大臣
 通称名と戸籍名の両方を常に併記するとした場合には、氏名を書くときに日常的に二つの名を記載するという負担を課するということになりますし、また、結婚によって氏を改めた方は公的な証明書類の書きかえが必要になる点において、現行制度と何ら変わらないことになるのではないかと思いますので、氏の変更に伴う不便、不利益を解消することはできないというふうに思います。その意味で、両姓を併記しなければならないという制度は、ニーズにこたえることができないという点が問題ではないかというふうに思うわけでございます。
 また、両姓が併記された場合には、どちらの姓でその人を特定するかという問題も生じてくるのではないかというふうに思います。

○水島委員
 今までの御答弁をまとめさせていただきたいと思いますけれども、そうしますと、職業上の不利益を解消しようという動機で法律をつくっていこうとする場合には、先ほど大臣は、出勤簿とか名札とか、そういうところでの通称使用は構わないけれども、職業上どうしても印鑑証明が必要になったり、パスポート、ビザという問題があるような方については、そんな安易なことではいけないのではないかということをおっしゃいましたけれども、やはり今いろいろな人が多様な職種につかれている。そんな中で、職業上の不利益を解消するというような趣旨で何かをつくろうとするのであれば、それはあらゆる職種の人に同じように適用されるべきであるとお考えになりますでしょうか。

○森山国務大臣
 その人の氏という、非常にだれにとっても重要な問題でございますし、基本的な法律の制度の一つでございますので、日本人すべてに適用されるルールをつくらなければいけないと思います。

○水島委員
 そうしますと、例えばこれこれの国家資格については通称使用を認めるというような、一部に限ったような通称使用の法案というものは、やはりふさわしくないというふうにお考えになりますでしょうか。

○森山国務大臣
 おっしゃるとおりでございます。

○水島委員
 そうしますと、結局、通称使用で法案をつくろうとするのであれば、すべての領域にわたった通称使用が可能となるような法律であるべきだということ、そして、通称を使用するのであれば、その範囲の中では戸籍姓の使用を禁止するのでなければ社会が混乱してしまうであろうということ、また、両姓併記というような方法は、不利益を解消するという目的をかなえるものでもないし、非常にまた混乱を招くというものであること、以上の点が御答弁として得られてきたと思いますけれども、このようにして考えてくると、通称使用で改姓の不利益を回避しようとすると、唯一の方法は、戸籍上に通称を記し、社会生活における通称使用を選んだ人は戸籍姓の使用を禁止するという方法でしか社会の混乱は避けられないと思います。まず、この点について御確認をいただきたいと思います。

○森山国務大臣
 いろいろな方法が考えられるかもしれませんけれども、一人の人について戸籍上の名前は一つ、公式に使われるのは一つということでなければ、いろいろな混乱を生じると思います。

○水島委員
 今、大臣にも御確認をいただきました、戸籍上には名前が一つ、そして社会生活における名前は一つ、それで社会ではその戸籍姓は使ってはいけないということになりますと、これはまさに選択的別姓制度に形式的に戸籍姓というものが残存しているというような構造になるわけでございまして、社会生活上実質的には選択的別姓そのものであると言えると思います。
 家族のきずなが弱まるとか、家族が崩壊するとかいうような理由で選択的別姓に反対し、通称使用で解決しようとする人たちがいるようでございますけれども、結局、通称使用を広げていっても実質的には選択的別姓と同じことというふうになりますので、家族のきずな云々という問題は同じなのではないかと思いますけれども、大臣の御見解はいかがでしょうか。

○森山国務大臣
 そのような議論が根強くあるということもよく承知しておりますけれども、どのような家族制度を法制度として定めたといたしましても、家族の一体感やきずなというものは法律で強制するべきものではないと思いますし、法律のおかげで保たれるというものでもないのではないでしょうか。要は、家族を構成する人々相互の愛情や思いやりによってつくられていくものであると思いますので、氏が同一であるかどうかということによって決まるものではないというふうに私は考えます。

○水島委員
 私も家族のきずなに関しては大臣と全く同じ考えでございますけれども、少なくともそのような不安を抱えられて、そして、何とか通称使用ということで打開しようと、不安を抱えられてというか、それを恣意的に利用されているのかもしれませんけれども、それが通称使用で何とか解決できるということに関しては、この通称使用という法律のあり方を一つ一つ検証してみると、結局のところ余り意味のない議論であるということになるのだと思います。
 このように考えてまいりますと、冒頭に御紹介申し上げました内閣府の世論調査で、通称をどこでも使えるように法律を改めると答えた人たちが思い描いている法改正の姿というのは、私たち選択的別姓を望む者たちが思い描いている法改正の姿と限りなく近いものであると思いますけれども、大臣はどう思われますでしょうか。

○森山国務大臣
 世論調査に答えた人々がそこまで突き詰めて考えられたかどうかわかりませんけれども、先生のおっしゃるとおりの帰結になるのではないかというふうに思います。

○水島委員
 本日は、通称使用という問題、今まで恐らく国会の審議の中で余り真正面から取り上げられたことがなかったのではないかと思いますけれども、今もって、通称使用で何とか解決すべきだ、そのための法案を提出したいとおっしゃっている方もいらっしゃるようでございますので、一度きちんと法的な観点から法務大臣の御意見を伺おうと思って質問をさせていただいたわけでございます。
 そして、もちろん私自身、この通称使用という法律をつくることによって問題が解決するとは思っておりませんし、そのように戸籍上にただ残存する戸籍姓というものの意味を考えてみますと、やはり社会で使う名前ときちんと戸籍上に登録されている名前というのは同一である方がより混乱が少ないわけでございますし、実際に選択制ということであるわけですから、やはりこれは選択的別姓制度ということですっきりとした法律にするべきではないかと考えているところでございます。
 そして、少なくとも、今世論調査のことを大臣からもお考えをいただきましたけれども、内閣府の世論調査において、通称をどこでも使えるように法律を改めると答えた人たちを選択的別姓反対派として位置づけることにはかなりの無理があるということがおわかりになると思います。
 多数の人が賛成するから民法改正という性質の問題ではもちろん本来ないわけでございまして、少数であっても必要とする人がいるから法改正する、そして、その少数の人たちの要望が他者の人権を侵害するものでなければ法改正するというのが筋であると思いますけれども、少なくとも、この世論調査の結果としても、全世代を通してこれだけ多くの人が法改正に賛成しているという現状を改めて御認識をいただきまして、一日も早い実現を心よりお願いしたいと思っております。
 少なくとも、内閣府の世論調査の結果を見て、過半数が反対しているんだというようなことはかなりの暴論であって、こうやって法律的な問題、立法府に身を置く者として、その法律ができたときの結果を一つ一つ検討していけば、これはやはり軽々に発言すべき問題ではないのではないかと思っておりますし、内閣府の世論調査についても、その結果はやはり粛々と受けとめるべきではないかと思っております。
 また、昨年もこの委員会で申しましたけれども、今現在、別姓を望む方たちは現実的な困難にぶつかる中で事実婚を選ぶようになってきているわけでございます。そして、さまざまな社会制度も、法律的な分野を除けば、事実婚であっても一般の法律婚をしている夫婦と変わらないような扱いを受けるようになってきているわけでございます。
 こんな状況の中でかたくなに選択的別姓に反対するということは法律婚制度そのものを形骸化させるということを、私はぜひ、反対派の方たちに十分に御認識いただきたいと思います。
 反対されている方たちが、そもそも法律婚などというものは要らない、一部の人たち、例えばきょう申しましたような職業上の不利益ということを考えれば、法律婚というのは夫婦の片方が働いていない人たちだけに許されるぜいたくと本心から考えていらっしゃるのかどうか。そんなことはないと思いますけれども、そのような形骸化した法律婚にしたいということであれば、いつまでも反対していただきたいと思っております。ただ、これが本当に現実生活に根づくような、きちんとした法律婚制度を維持したいと思われるのであれば、選択的別姓制度に反対するということはそもそも現状を考えてもおかしいのだということをぜひ御認識いただきたいと思っております。
 森山大臣は、このような点については、もうかねてから十分に御理解くださっていると思いますけれども、本日また、自民党で、法務部会で議論が行われるという、そんな記念すべき日であるようでございますので、その日を前に、法務部会長の先生も本日今、聞いてくださっておりますけれども、大臣としての改めての決意表明をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○森山国務大臣
 家族という問題でありますから、すべての人に多大の関心がある、非常にその人の生活感覚を反映する問題でありますので、どなたでも御意見があることだと思います。非常に多様な生活様式あるいは生活感覚の反映の結果、さまざまな意見が大変あちこちにあるということは先生も御存じのとおりでございます。
 生活の多様化、そして、特に女性の社会進出が多くなってまいりました今日、今までの仕組みで縛るということが非常にできにくい状況になっておりますので、おっしゃるような事実婚が多くなってきているということを考えますと、やはり法律によって認められた結婚を多くの方がしていただいて、そして、その結婚生活が法的にも安定し、また、子供たちのためにも落ちついたものであるということが必要だということも考えます。そのような意味で、現在の生活様式あるいは多くの人の生活感覚にできるだけ近いやり方で、もう百年以上もやっておりましたこの形式を少し寛容な、選択のできるものにしていくということは、今の時点で私どもが担っている責任ではなかろうかというふうに思う次第でございます。
 幸い、きょう、自民党におきましても、法務部会が具体的に議論をしていただくということになっておりまして、その議論の成果を期待したいというふうに思っております。法務部会長もおいでになりますので、よろしくお願いしたいと思います。

○水島委員
 大変力強い御答弁をいただきまして、ありがとうございました。法務部会長の佐藤先生もしっかりとお聞きいただいておりました。
 本当にもう、事ここに至りますと、選択肢はかなり限られていると思っております。本日、いろいろ御答弁をいただいてまいりましたけれども、通称使用を認める法律をつくるということは、現実的には選択的別姓を認める法律をつくるということに吸収されていく概念であるわけでございますし、ですから、選択的別姓を認めるというのが一つの選択肢、あるいは、あくまでも認めずに法律婚を形骸化させていくというのがもう一つの選択肢、それしかないのだと思っております。ぜひ、強硬に反対されている方たちにはこの点を十分に御理解をいただきたいと思っておりますし、いつまでも反対し続けるということは、今申しました後者の選択肢の方に皆様一票を投じられているのだということを御認識いただきたいと思っております。
 そのような御理解のもとで、本日しっかりとした議論が自民党内において行われまして、そして今国会中に、本当に多くの方たちが待ち望んでおられます選択的別姓が実現しますことを、その日を森山大臣とともに本当に喜べる日が一日も早く来ますことを心よりお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。




  質問バックナンバー|HOME