法務委員会
(2001年12月5日)




質問バックナンバー|HOME

触法精神障害者処遇、民法改正について



○保利委員長
次に、水島広子君。

○水島委員
民主党の水島広子でございます。
 本日、まず森山大臣に、司法と精神医療の連携についてお伺いいたします。
 与党政策責任者会議、心神喪失者等の触法及び精神医療に関するプロジェクトチーム報告書が十一月十二日付で出されております。政府としてはこれに基づいて検討を進めておられるということですけれども、まず、この与党案は新たな立法を提案しているものですが、大臣は新たな立法が必要だと思われますでしょうか。

○森山国務大臣
犯罪に当たるような行為を行った精神障害者の処遇につきましては、現在、このような精神障害者を含め、自傷他害のおそれがある精神障害者についての都道府県知事による措置入院の制度がございます。
 しかし、殺人等の重大な犯罪に当たる行為をした精神障害者の処遇がどのように決定され、またどのように処遇されるかにつきましての被害者を含めた社会の関心に十分にこたえていくという観点からすると、入院治療の要否や退院の可否等の判断に当たりまして、医療的な判断にあわせて法的な判断を行う仕組みが必要ではないかと考えております。また、退院後の継続的な治療を確保するための仕組みも必要ではないかというふうに思われます。
 重大な犯罪に当たる行為を行った精神障害者の処遇の問題につきましては、具体的な施策を早急に進めることが必要であると考えておりまして、現在、厚生労働省等とともに、各般の御意見を参考にしながら、また御指摘の与党プロジェクトチームの御意見等をも踏まえまして、法整備に向けて早急に結論を得られるよう検討しているところでございます。

○水島委員
そうしますと、確認いたしますと、今の現行の法制の中ではこの問題に適切に対処することが難しいという結論に立って、新たな立法の必要性ということをおっしゃっていると理解してよろしいでしょうか。

○森山国務大臣
おっしゃるとおりでございます。

○水島委員
それでは、政府の作業の現在の進捗状況をお伺いしたいのですけれども、現状がどうであるか、また、政府としては、どういう手順で、いつまでに何をまとめるつもりかということをお伺いしたいと思います。そして、その中でどういう方法で国民の声をくみ上げるおつもりであるか、そのことも含めてお答えいただきたいと思います。

○森山国務大臣
この問題につきましては、これまで厚生労働省とともに合同検討会を何回か開催いたしてまいりまして、その中でも、医療関係者、またこの問題に関心を有する法律家、有識者などの御意見を伺ってきた上で、関係各方面からの要望書などもお受けしているところでございます。
 現在、これらのいろいろな御意見等を踏まえながら、厚生労働省とも協議しながら検討を進めておりまして、今後とも適宜、関係各方面からの御意見を伺いながら、早急に結論を得たいというふうに考えております。できれば、次期通常国会に必要な法案を提出することができればと思いまして、最大限努力をしているところでございます。

○水島委員
通常国会に提出できればということでございますので、これはかなり大きな問題ですのでかなり根を詰めた作業が必要になるのではないかと思いますし、既にもう十二月に入っておりますので、ある程度はもう検討が進んでいるのではないかと思うのですけれども、ちょっとその内容についてこれからお伺いしてまいりたいと思います。
 与党案におきましては、「地方裁判所の判定機関は、裁判官、精神科医、精神保健福祉士等により構成し、処遇を決定する」とありますけれども、処遇決定における裁判官の役割をどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

○森山国務大臣
殺人等の重大な犯罪に当たる行為をした精神障害者の処遇の問題につきましては、その処遇がどのように決定され、またどのように処遇されるかについての被害者を含めた社会の関心に十分にこたえるという必要があると思われます。入院治療の要否や退院の可否等の判断に当たって、医療的な判断にあわせて法的な判断を行う仕組みが必要ではないかと思っております。
 現在、その処遇の決定のあり方を含め、具体的な施策のあり方については、厚生労働省とともにさまざまな角度から調査、検討を進めているところでございますが、この問題に関して与党のプロジェクトチームの報告書におきましては、裁判官、精神科医などが関与してその処遇を決定する手続を設けるという御意見が示されております。
 今後は、そのような御意見をも十分に踏まえながら、早急に結論を得たいというふうに思っているところでございまして、まだ成案を得ておりませんので、ここで法務省としての案あるいは政府としての案を御説明できる段階ではございません。

○水島委員
今、御説明はいただけないということではございますけれども、例えば今の裁判官の役割、また処遇の決定のあり方というのは非常に難しい問題だと思うのですけれども、例えば、裁判官と精神科の専門職の意見が異なる場合など、最終的に決定するのはだれになるべきかというような問題があると思います。この点についても政府としての案はお答えいただけないというような今の御答弁だと思いますけれども、今後、具体的にどのような手順で検討していかれるつもりなのかということ、そのくらいは多分検討していらっしゃると思いますので、それをお答えいただきたいと思います。

○森山国務大臣
先ほど申し上げましたように、政府の案というわけではございませんが、この問題に関して与党のプロジェクトチームの報告書を拝見しますと、裁判官、精神科医等が関与してその処遇を決定する手続を設けるという御意見が示されております。そのような御意見を参考にさせていただきながら、さらに具体的に詰めていかなければいけないというふうに思っております。

○水島委員
大臣としての個人的な御意見で結構ですけれども、このような、非常に難しい問題だと思いますが、裁判官がその最終的な決定者となるべきかどうかについてお考えをお聞かせいただければと思います。

○森山国務大臣
個人的な意見ということもなかなか申し上げにくいのですが、この制度の、処遇をするかしないか、どのようにするかというようなことを決定いたしますにつきましては、本人の病状とか、予測される将来の問題行動のおそれの有無、内容などを考えた上で、本人の意思に反してでも入院をさせたり、あるいは通院を義務づけるというようなことが必要になるかもしれません。そういうふうに考えますと、やはりこのような判断はまさに法的な判断になじむのではないかというふうに思うわけでございます。

○水島委員
現状の措置入院の制度でも、本人の意思に反しての治療ということでは、それを精神保健指定医が判断するというような構造になっているわけですけれども、あくまでも治療が必要であるかどうかということを判断するのは精神医療の専門職であるべきだと私は思っておりまして、これは非常に難しい問題だと思いますので、ぜひ十分な御検討をいただきたいと思います。
 そしてこの与党案におきましては、判定機関の決定に対する不服申し立て手続を定めるとございますけれども、不服申し立て手続のあり方をどのように考えていらっしゃるでしょうか。

○森山国務大臣
重大な犯罪に当たる行為を行った精神障害者の処遇の問題につきましては、いろいろな事件がことしの間にもございまして、特にこの夏の事件などを考えますと、いろいろなことをできるだけ早く進めなければいけないというふうに思っております。
 不服申し立て手続を定めるということの御提案も、先ほどの与党プロジェクトチームの報告書の中にもございまして、そのようなことも含めて、今後とも早急に検討をしなければならない重大なテーマだと思っております。

○水島委員
また、与党案におきましては、「保護観察所は、対象者の観察、生活環境の整備、継続的な治療を確保するための指導監督等を行う」とございますけれども、保護観察所がこのような機能を果たせるようになるためには、現状では不十分だと思いますが、現状に加えてどのようなことが必要だと考えておられるか。そしてまた、そのような場合に、具体的にどのような形で治療の継続が確保できるのかというところをお伺いしたいと思います。

○横内副大臣
与党のプロジェクトチームの報告書におきましては、保護観察所は通院治療を要する対象者についてその継続的な治療を確保するための指導監督の実施などを担うべきことというふうにされているわけでございます。
 委員も御案内のように、保護観察所というのは、主として犯罪や非行を犯した者に対する保護観察の実施を担う機関でございますから、この報告書で要請されているような業務というのは新規の業務になるわけでございまして、そのためには、専門的な知識を有する者の確保、育成を急ぐなど、所要の体制整備を図ることが必要だというふうに考えております。
 また、どのようにして実際、保護観察所が仕事をするのかということでございますけれども、関係機関と連携をしながら対象者の指導監督ということをやるわけでありますけれども、やはり精神保健福祉士さんだとかそういう関係の方々と保護観察所が十分に連携をとりながら、対象者の出頭を定期的に求めたり、あるいは対象者の自宅に訪問をしたりというようなことをしながら指導監督をしていくということになるだろうというふうに思っております。具体的な方法というのは、今後、厚生労働省等とも十分協議をして、適切な方法を検討していきたいというふうに思っております。

○水島委員
次に、与党案では専門治療施設を整備するとされておりますので、厚生労働省にお伺いしたいのですけれども、日本には司法精神医学の専門家が少ないという現状がございますけれども、専門的治療をどのように確保すると考えていらっしゃるでしょうか。

○高原政府参考人
お答えいたします。
 重大な触法行為をした精神障害者の入院及び通院治療を担当する専門治療施設におきましては、対象者の社会復帰に向けて適切な医療を行う必要があると考えておりまして、内容といたしましては、薬物療法、精神療法、社会生活技能訓練等があろうかと思います。
 特に、触法行動を行ったということでありますと、ある状況に対してある思考パターンが働いて、それに対応して問題行動が起きるというふうなこともあろうかと思いますので、そういうふうな連鎖を断ち切るような精神療法といいますか訓練というものが必要かと思います。
 また、御指摘のように司法精神医学の専門家は非常に少のうございまして、これにつきましては、留学制度等を予算要求いたしまして、欧米等先進国におきます司法精神医学の研修等を考えております。

○水島委員
その専門治療施設においては、医療スタッフの人員配置をどの程度の厚さにしようと考えていらっしゃるでしょうか。

○高原政府参考人
これは法制定後の詳細な検討ということにもなろうかと思いますが、概念的に私どもが考えておりますことは、重大な触法行為をした精神障害者の入院施設ないしは通院施設におきましては、多くの場合、特に入院施設でございますと精神科の急性症状の患者さんであるということ、そういった特性をかんがみるとともに、諸外国でどういうふうな人員でやっているのか、現在日本におきます精神科の病棟のうち進んだところ、そういったものを総合的に勘案いたしまして、適切かつ良質の精神科医療が可能となるよう基準を考えてまいりたいというふうに考えております。

○水島委員
また、与党案では、専門病棟からの退院後は他院への入院ではなく通院ということになっておりますけれども、こういう形態であると入院が長期にわたって、収容所化してしまうのではないかというような懸念がございます。また、どの程度の設備をつくるか考える上では平均在院期間を念頭に置いておく必要があると思いますけれども、現状でどの程度の入院期間を想定して、全国で何床の病床をつくろうとしていらっしゃるのでしょうか。

○高原政府参考人
入院日数の決め方ということ自身、どういうふうな形で何をメルクマールに決めるのかということを検討中でございますので、なかなかはっきりした御答弁になりかねると思いますが、諸外国の知見や専門家の御意見を参考にいたしまして、社会復帰が可能となるような適切な入院期間を想定した上で、必要な病床を年次的に整備してまいりたいというふうに考えております。

○水島委員
今延々と伺ってまいりましたけれども、ほとんどの質問に対して、現在検討中である、あるいはこれから検討していきたいということで、ほとんど明確なお答えをいただけなかったと思います。この問題は国民的な議論が必要な重要なテーマでありまして、政治的な対立に持ち込むことなく、与野党がしっかりと議論をする必要があると思っております。また、各界の意見をしっかりと聞いて、国民的なコンセンサスを得る必要もあると思います。何を聞いても検討中とのことで何も答えられないというような姿勢では、こちらとしても非常に大きな不安を感じますので、通常国会で突然ぼんと法案が出てくるというのではなく、きちんとその前の情報開示をしていただきまして、ぜひ私たちもその議論の中に入れていただけますようにお願いをいたしたいと思います。きょうはお答えいただけないということですけれども、いつならお答えいただけるのかということをぜひ早急にお示しいただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 最後に、残りの時間で民法改正のことをお伺いしたいと思います。
 今国会で政府が民法改正案を出すのではないかと期待させられることが何度かございまして、そのたびに期待を裏切られてきたわけでございますけれども、昨日、自民党の有志議員八十二名の方が夫婦別姓導入に反対する意見書を、幹事長を初めとする幹部に提出されたということをけさの新聞で読みました。その中で、恒久不変な家族のきずなのためにというふうに書かれておりまして、この恒久不変な家族のきずなというのが何なのか、大臣がもしおわかりになれば教えていただきたいというのが最初の質問でございます。
 国際的に見ますと圧倒的な国が別姓を認めているわけでございまして、それらの国では家族のきずなが弱いというのか、また、原則別姓の中国や韓国のような国には家族のきずなというものがないのか、そういうふうに考えますと、非常におかしな議論であると思います。反対者の方たちにとっては、家族のきずなは夫婦同姓のもとでしかつくれないのかもしれませんけれども、そういう人たちばかりではないわけでございまして、別姓の方が家族のきずなが強まるという方も少なくないわけでございます。反対派の方たちの意見を聞いておりますと、もういいかげんに人の多様性を学ぶべきではないかと思いますけれども、こういったことを十分に承知されている大臣でございますので、また世論調査の結果から見ましても多くの国民が大臣の味方でございますので、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。
 その上で、通常国会には出していただけるのかどうかということをお答えいただきたいのと、あとは、政府提出法案では選択的別姓の問題だけが盛り込まれまして、私たちが既に議員立法で提出をしております法案に含まれているもう一つの重大なテーマである非嫡出子の問題が置き去りにされております。日本も子どもの権利条約の批准国でございますし、子供の権利の問題というのは優先すべき課題だと思います。国連の委員会勧告につきましても大臣はその意味をよく理解されていると思いますし、だからこそ、五月十八日の法務委員会で私が質問しましたときにも、重大な問題と答弁してくださったのだと思っております。
 この非嫡出子の問題の現在の検討状況と、今後、この問題にどのように取り組んでいかれるおつもりか、具体的なタイムスケジュールを教えていただければと思います。
 以上三点、お伺いいたしましたが、お答えいただければと思います。

○森山国務大臣
けさの新聞に出ました自民党の議員数十人の意見についてのお話がございました。
 この件は、その人の家族に関する意識とか、結婚というものをどう考えているかとか、そういう非常に個人的な問題が多いですから、いろいろな人がいろいろなことを言うのは当然といえば当然なんでございます。
 現に、同じ自民党でも、けさの山本先生の御質問ではぜひ早くやれというお話でもございましたし、自民党の中にもいろいろな方がいらっしゃいまして、最近それが表のテーブルにのりまして、自民党の法務部会におきまして大激論が闘わされているようでございまして、いよいよ具体的に真剣にみんなが考えてくださるようになったというふうに思って、私はむしろ喜んでいるところでございます。
 残念ながら、この臨時国会はあと三日しかない会期でございますのでちょっと難しいなとは思いますが、来年の通常国会までには何とか、その議論をしっかりと続けていただいて、よい結論を得て、提案できるようになってほしいというふうに願っております。
 また、子供の問題につきましては、この前も申し上げましたように、大変重大な問題であることはそのとおりでございますが、ちょっとこの選択的夫婦別姓とまた全く違う話でございますので、一緒にいたしますとむしろ難しいのではないか。一つ一つきっちりとやっていきたいと思いますので、とりあえず選択的夫婦別姓の方を世論調査も先にやっていただきましたし、これがめでたく無事に終わりましたら次に取りかかりたいというふうに考えております。

○水島委員
ぜひよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。



  質問バックナンバー|HOME