国会報告 その236(2005.06.25発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回、発行しております



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国会報告



■学校の安全



 栃木県上三川町の小学校で、3年生の男の子が、学校の敷地内で教員の 運転する車にひき殺される、という信じられない事件が起こりました。私 にも小学2年生の娘がいますので、とても他人事ではありません。事件そ のものは刑事事件として扱われていくということですから、しっかりとし た捜査が行われていくことを期待します。

 それにしても、学校は「北門の方には行かないように」という指導をし ていたと言っていますが、立ち入り禁止の表示があったというわけでもな いところに、全校清掃の時間に、ちりとりを持ってゴミを捨てに行ったと 推測される子どもが、なぜ車にひかれなければならないのか、私には全く 腑に落ちません。
 「学校の安全」というと、ここのところ外部からの侵入に対する対策が主 に語られてきました。でも、敷地内の交通安全という最低限の安全すら確 保されていなかった、ということが、今回の事件で明らかになったわけで す。早速6月23日に文部科学省の方をお呼びして学校の施設基準につい て聞きました。
「行かないように」と言っても、小学校は1年生からいるところであり、 好奇心の強い子どもたちは敷地内であればどこまででも行く可能性があり ます。そのことを想定に入れた上での施設基準を作る必要があります。
私は、原則的に、駐車場は学校の敷地外(例えばフェンスで隔てた隣接 地)にでもあるべきではないかと思いますが、文部科学省が作っている「小 学校施設整備指針」には、「児童等が安全な移動経路を設定することがで きるよう各施設部分を配置することが重要」「児童、訪問者、車等の各移 動経路を合理的に設定することができるよう各施設部分を配置することが 重要」という記述があります。今回の事件と関係がありそうなのはこの部 分です。

栃木県教育委員会では、今回の事件を受けて、校内へ車を乗り入れる際、 児童生徒の安全確保を徹底するよう文書で通知したということですが、6月 23日現在、文部科学省では、今回の事件を受けて何らかの指導を行う予 定はないとのことでした。
私にとっては衝撃的すぎる事件でしたが、文部科学省にはそのような感 覚がないのだろうか、という問題意識を伝えておきました。私自身も、引 き続き、この件を追っていきたいと思っています。
 

■自立支援医療制度運営調査検討会



 連日のように自立支援法案についてのご意見やご要望をいただき、あり がとうございます。お返事をさせていただくエネルギーと時間を全て厚生 労働省との協議に振り替えさせていただいておりますので、お一人お一人 にお返事できず申し訳ございませんが、すべて私自身が拝読させていただ いております。

 自立支援法案の審議は、修正協議に入ることをきっかけに現在中断して おり、他の法案の審議が先行しているところです。与党が本質的な修正に 譲歩しないという理由で与野党間の修正協議は打ち切るという「次の内閣」 の方針が決定されたようですが、こちらは、政省令の細部についてもでき るだけ明らかにして方向性を正しいものにしたいという思いで、連日努力 しています。
 私は自立支援医療(育成医療、更生医療、精神医療)を主に担当してい ます。育成医療、更生医療、精神医療それぞれに特徴も制度の趣旨も異な り、「一元化することが公平」という厚生労働省の言い分もいつまでも理 解できません。
 例えば、育成医療は、今回自立支援医療に組み込むことで「浮かせる」 予算はわずか6億円と試算されます。育成医療は、例えば、先天性の心臓 疾患を持っている子どもの場合、一回の手術料が800万円などというケ タであり、一件あたりの医療費は高いのですが、数が決して多くないので、 総額としては決して大きな額にはならないのです。
 厚生労働省は、「子どもだからといって特別に公費を入れるというわけ にもいかない」と、子どもの権利条約の批准国とも思えない発言をしてい ますが、対象が子どもであることからも、医療費の特徴を考えても、育成 医療は維持すべきです。

 もう一つ、現行制度の枠組みを維持すべきなのが精神医療です。すでに 私も厚生労働委員会でも指摘しましたが、今回の新制度の枠組みそのもの、 特に、「重度かつ継続」という概念は大きな問題です。この国会での指摘 を受けて、厚生労働省では、「重度かつ継続」の範囲を考えるための専門 家会議である「自立支援医療制度運営調査検討会」を急きょ開くことにな りました。
 6月22日に第1回会議が厚生労働省で開かれましたので、私も傍聴に 行ってきました。この法案の行方を心配している方たちが全国から傍聴に 集まっておられました。

 この検討会の趣旨は、「自立支援医療の臨床実態に関し実証的研究に基 づき検討し、その結果を改正後の自立支援医療制度の基準作りに反映させ るための検討会」ということになっています。検討課題の第一は、「自立 支援医療の対象者の中で重度かつ継続的に医療費負担の発生する者の 範囲」となっています。
 やはり、という感じで、構成員の専門家の方たちからは、「重度かつ継 続」という概念への疑問や、疾患名で絞り込むことへの疑問が次々と表明 されました。
 厚労省からの答弁を聞いて、「これは、つまり『重度かつ継続』なので はなく、『高額かつ継続』ということですね」というような皮肉も出てい るような有様でした。
 「重度かつ継続」を、統合失調症・躁うつ病(狭義)・難治性てんかんの 3つに絞ったことの理由を、厚労省は、「医療費の高額事例を集めて、ど ういう疾患が含まれているかを見たところ、この3疾患になった」という ふうに説明していましたが、これに対して、日本精神科病院協会と日本精 神神経科診療所協会からもっと説得力のある反論データが出されています。
 統合失調症の医療費を引き上げているのはデイケアであり、日本精神科 病院協会のデータでは、デイケア利用有の統合失調症の方の月額医療費平 均は113,557円、デイケア利用無の統合失調症の場合は18,243円で、全体の 平均よりもむしろ低くなっているのです。
 統合失調症の方の場合はデイケアの利用率が相対的に高いので、厚生労 働省のようなデータ抽出を行えば、「医療費が高いのは統合失調症」という ことになるのですが、統合失調症の方全てがデイケアを利用しているわけ ではありませんし、他の疾患の方でもデイケアを利用することはあります。

 高額医療費の人を調べたら3疾患が多かったからその3つを「重度かつ 継続」と決めた、というやり方はあまりにも乱暴で意味がないと言えます。 精神科臨床の現状を知らないと言われても仕方ない話であり、だからこそ 構成員の専門家たちがこぞって疑念を示したのでしょう。



■ベーシック・インカム構想



 国会では、年金・医療・福祉など、政府が提案してくる小手先の「改革」 を修正する、という対応に多くの時間をとられてしまう毎日なのですが、や はり政党としてはもっと本質的な社会保障のあり方を提示する必要があると 以前から考えてきました。
 もっと自由な発想で社会保障を抜本的に見直していかなければ、従来型の 発想から抜け出せずに自縄自縛に陥るという危機感を持っています。
 そんな考えに基づいて、横路ネクスト厚生労働大臣に理解していただき、 「21世紀の社会保障制度を考える勉強会」をスタートさせました。

 第一回は、北海道大学の宮本太郎先生から総論をお話しいただき、第二回 の6月22日には、京都府立大学教授の小沢修司先生をお招きして、「ベー シック・インカム構想と日本の社会保障改革」というタイトルでお話をいた だきました。

 ベーシック・インカム構想とは、就労の有無、結婚の有無を問わず、全て の個人(男女や大人子どもを問わず)に対して、ベーシック・ニーズ(人間 として暮らしていくための基本的な必要)を充足するに足る所得を無条件で 支給しようという最低限の基本所得保障の構想で、案外歴史の古い考え方で す。各種手当や年金や保険給付などを全て置き換えて拡充する、という考え になります。
 「お金のために働く」という価値観に傾倒しすぎると、環境のことも考え ずにどんどん経済成長を求める、ということにもなってしまいます。ベーシ ック・インカム構想は、「生産主義」から「脱生産主義」へという価値観の 転換をもたらすものです。
 その効果としては、セーフティーネットの提供、多様な人間労働の価値の 尊重、性別役割分業からの解放、ワークシェアリングの推進、労働市場の柔 軟性の向上、税制と社会保障のシステムの簡素化・合理化、などが考えられ ています。
 現状の日本で聞くと突飛な発想に聞こえますが、可能性を含む考え方とし て、私もさらに咀嚼していきたいと思います。




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