国会報告 その234(2005.06.11発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回、発行しております



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国会報告



■ 年金合同会議



 6月6日、年金制度をはじめとする社会保障制度改革に関する両院合同会 議に、委員として出席しました。これは、すでに広く報道されている、年金制度 の見直しのために設置された衆参合同・与野党の合同会議です。
 まず各党から一人ずつ、それぞれ10分以内で基調発言をし、その後、一回5 分以内の発言での自由討議が行われ、全体で2時間の会議でした。
 年金制度の現状認識及び将来の見通し」というテーマで開かれた会議なので すが、まず、与野党で現状認識に大きな隔たりがあるということが最初の基調 発言ですでに明らかになりました。
 自民党の方は「年金保険料の未納や出生率は共に、年金制度の破綻と騒ぐほ どの状態にあるわけではない」という論調。公明党の坂口力前厚生労働大臣は、 年金の一元化の是非について疑問を呈するなかで、国民年金のことを「健康で さえあれば定年なくいつまでも働ける人」のための年金、という扱いをしていま した。
 もともとの国民年金は確かに資産があって定年がない自営業者のための制度 だったのですが、現在では、国民年金加入者の中心は、「厚生年金に入れない ほどの低所得者」となっています。つまり、本来は厚生年金の対象となるべき、 パート労働者やアルバイトなどの被用者が、国民年金に加入せざるを得ない状 態になっているのです。
 
 私も自由討議の中で発言させていただきました。与党の方から、「政府案は、 育児休業中の保険料免除など、育児にも配慮している。でも、民主党案は女性 への配慮が足りないのでは?」という論調の質問をいただいたので、それに答 えつつ問題点を述べました。

 現在、育児休業を取得して、政府案の恩恵に預かれる人は、子育てをしてい る女性の中では少数派です。なぜなら、約7割の女性が出産を機に仕事をやめ ます(やめざるを得ない状況に追い込まれます)。女性の6割が育児休業を取得 しているとは言っても、それは、出産前から働いていた人の約2割に過ぎない、 ということになるのです。
 より多くの女性が、就労意欲はあるのに無職になっていたり、パート労働者 などになったりしています。その人たちは、育児休業中の保険料が免除される という恩恵とは何の関係もないということになってしまいます。  
 こういった全体を見渡すと、やはり民主党案のように一元化をして夫婦につ いては当面の間二分二乗方式をとる、というやり方しかないのではないか、と いうことを申し上げました。
 

■ 森岡厚生労働大臣政務官発言について



 6月8日の衆議院厚生労働委員会で、民主党の中根康浩議員が、森岡正宏 政務官の「日本は経済封鎖され、やむなく国際法に則って戦争をした。戦争は 国際法で認められている政治形態。A級戦犯の分祀や新たな追悼施設の建設を めざすのではなく、東京裁判は国際法違反だということを世界に向かって訴 えるべき。小泉首相は靖国参拝を続けるべき」という恐るべき発言について、 政府の一員である政務官の職責にふさわしいのか、という質問を展開しました。

 厚生労働省の重要な仕事の一つに戦後処理があり、遺骨収集なども厚生労 働省がもっぱら担当しているわけです。中国は、日本の度重なる要求にも関 わらず、遺骨収集を未だに認めていません。その交渉をしていく立場が厚生 労働省であり、今回の政務官の発言は、明らかに事態を難しくしており、「省 益」に反すると言えます。
 中根議員の質問に対して、森岡政務官は、「自由民主党というのは名前の通 り自由に発言できる政党。少しでも政府の方針と違うことを言うと閣内不一 致と言って議論を封じ込めるのはおかしい」と、自らの発言を認めました。
 その後の質問に対しては、なぜか何度も衛藤副大臣が「答える必要はないよ。 答えなくていい」と森岡政務官の答弁を封じようとしました。森岡政務官本人も 途中でしばらく答弁拒否をしていました。
 政務官にふさわしいのかという質問に対しては、「政務官としては小泉総理が 決めた方針に従ってがんばっていく」と繰り返していました。
 このやりとりを聞いていて、森岡政務官の発言が、戦後の日本の歩みをぶち こわしかねない認識に基づいていることに改めて唖然とすると共に、「一人の政 治家としての信念はこうだが、政務官としては違う」という姿勢に強い疑問を感 じました。

 歴史認識というのは、かなり本質的な政治信念です。それを180度転換して 政務官の職責を果たすという政治家を、どこまで信用したら良いのでしょうか。 また、政府の方針というのは、もちろん最終責任は首相にあるとは言え、政務 官も含めて一人一人の構成員が決めていくものです。森岡政務官は、今後、政 府の方針を変えていくように働きかけるのでしょうか。それとも、政務官とい うのは、そんな権限もないくらい軽い仕事なのでしょうか。

 「ちょっと違う意見を言うとすぐに閣内不一致と言われる」という森岡政務官の 心情もわからないではないですが、それは、閣議なり何なり、政府部内での議論 を活性化すれば良いだけの話で、やはり要職にある人間が外部に向かって発言す るものは統一されていて初めて政府として信頼されるのではないでしょうか。
 これは政党がバラバラなどという問題とは次元が全く違う話で、政府はあくま でも行政府なのです。代議士会は、確かに自民党の中の会という位置づけです が、公開されているものですし、発言者も当然自分の発言が報道の対象になる ということはわかって発言しています。それを、「党内の会だから、一議員とし て発言したのみ」と言われても、軽率のそしりは逃れないでしょう。

 ここのところは、小泉首相の靖国問題を受けて、中国のみならず、東南アジア の主要紙の社説でも「何も反省していない日本」などと書かれているそうです。 政府として受け入れているものを、政府の要職にある一員が本音では全く受け 入れていない、ということを海外に発信しているのですから、国際的な信頼を勝 ち取ることは難しいでしょう。



■ 精神障害者の就労支援施設の視察




 前回、スペースの都合上報告できませんでしたが、6月1日に、精神障害者 の就労支援を行っている通所授産施設「ピアス」(棕櫚亭グループの一つ)の 視察に行きました。ここは、精神障害者の就労率50%という目覚ましい成果 を上げていることで注目されています。
 ピアスは、「働きたいけれどまだ準備が必要」という人を対象に、2年という 期限の中で、以下のような就労支援を提供しています。

(1)4つのトレーニング(週5日・1日4時間) 厨房・喫茶・菓子製造・清掃の 4部門で基礎体力、作業能力アップ等のトレーニングを行う。特に、清掃は、 民間会社の方を講師に招いて最新技術を身につけており、ピアスの「売り」に なっているそうです。

(2)就労プログラム 精神科医、事業主、ハローワーク相談員などの講演など、 職場で働く上での心構えや必要な知識を学ぶ。

(3)個別相談 各利用者に担当職員がつき、必要に応じて定期面接を 行い、そ の人にあった就労支援を行う。また、就労が目前となった利用者には就労支 援担当職員が支援を行う。

(4)就労定着支援 より長く安定して仕事ができるように、ジョブコーチが職 場まで出向き定着支援を行う。

 やはり一番重要なのは就職先の確保ですが、職員の方が熱心に地域を歩 き就職先を開拓しているそうです。一人就職してうまくいくと、「もう一人どう ぞ」と職場の方から言ってくれるとのこと。やはり、偏見というのは、知ること で乗り越えられるのでしょう。

 私たちが訪ねたときには、ちょうど、すでに就職している人が午前中の仕事 を終えて来られていました。毎日、ここによって昼食をとり、仕事の上での悩 みの相談などをしていくそうです。このことからもわかるように、職員の方々 も、利用者の方々も、温かい信頼関係の中で生き生きと活動されていて、とて も好感を持ちました。
 就労の意欲も能力もありながら、システムが不備なために就労できない、と いうケースがあまりにもたくさんありますので、ピアスのような取り組みは大 変貴重だと思います。現在は、就労支援そのものについては何も経済的な支援 がないということですので、審議中の自立支援法案においてその手当がされて いるというのは評価できると思います。

 その一方で、「障害者は働くことが良い」という価値観一色に染まってしま うのも問題です。「障害者をかわいそうな福祉の受け手ではなくタックスペイ ヤー(税金を払う人)に」というスローガンは一見良い響きを持っているので すが、どんなに条件を整えても賃金労働のできない人はいます。
 「障害者をタックスペイヤーに」という価値観一色になってしまうと、福祉 の受け手であることをますます「かわいそう」なことにしてしまうのではない か、と心配です。もちろん、「障害者は働く必要はない」という価値観を押し つけて、働きたい・働ける人からもその機会を奪うのはもってのほかです。人 間の尊厳、多様性の尊重という当たり前の価値観がもっと自然に根づ くと良いのですが。



 ☆テレビ出演のお知らせ☆
 『みのもんたの朝ズバッ!』
  6月14日(火)
  AM5:30〜8:30
  TBS系




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