国会報告 その159(2003.9.22発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回(月曜日)発行しております




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国会報告




■9月11日、外国人特派員協会で講演しました。




外国人特派員協会に招かれたのは、当選直後以来3年ぶり。
私の翌日には埼玉県知事になられた上田清司さんが招かれており、「時の 人」を呼ぶのが慣例となっています。
当選直後ならいざ知らず、今の私がなぜ「時の人」なのかと言うと、5月 に出版した「国会議員を精神分析する」(朝日選書)に関連して、外国人 記者には理解しがたい日本の国会議員の精神構造を説明してほしい、とい う要請があったためです。いずれにせよ、大変名誉なことです。
外国人特派員協会では公用語が英語ということですので、私は今回もまた 英語で講演しました(現地の文化に敬意を表して、なるべく現地の公用語 を使うのが私のポリシーです。日本に滞在している外国人の方には日本語 をできるだけ使ってほしいと思っています)。
いろいろな質問が出ましたが、中でも興味深かったのは「この本で書かれ ている政治家のパーソナリティーは、日本の政治家に特有なのか、各国に 共通なのか」という質問でした。確か、ウォールストリート・ジャーナル の記者の方の質問だったと思います。
私は、確かに万国共通のパーソナリティーではあるだろうけれども、日本 では政策本位の選挙が行われにくいため、特にその傾向が顕著なのではな いかと答えました。




■9月19日、日英犯罪減少対策フォーラムに出席しました。



これは、警察政策研究センターなどが主催するもので、警察政策フォーラ ムのひとつです。
「地域を基盤とした犯罪減少対策〜英国の少年犯罪対策を参考に」という テーマで、イギリスから講師を招いて基調講演とパネルディスカッション が行われました。

国会議員の参加は私ひとりでした。私がなぜ参加したのかというと、私が この夏の視察でロンドンでお世話になった少年司法委員会のチャールズ= ポラード卿(Sir Charles Pollard)も招聘されていたためです。ポラード 卿のほかに、ダニエル=ギリング博士(Dr. Daniel Gilling)も招かれてお り、私は日程の関係上、ギリング博士の基調講演だけを聞くことができま した。もっとも、ポラード卿の話はロンドンにおいてマンツーマンで聞く 幸運に恵まれたのですから、今回、ギリング博士の講演をうかがって、完 成を見たと言ってよいでしょう。

余談ですが、今まで、私のようなタイプの議員は警察庁とあまり親しい関 係を持ってこなかったように思います。この夏の視察を機に、警察に対す る新たな視点も持つことができ、私にとっては良い勉強になりました。

1ヶ月半ぶりにお会いしたポラード卿からは、その後の青少年問題特別委員 会の進行具合について質問されましたが、「何しろ今は選挙、選挙で国会 も閉会中」と言うと、「どこの国でも同じだね」と笑われました。「当選 を祈っている」とも言ってくださいました。

ダニエル=ギリング博士は、社会安全政策、犯罪予防政策、警察活動に関 する研究を専門とし、地域の安全施策に関する実証的研究でマンチェスタ ー大学より博士号を授与された方です。現在、プリマス大学において教鞭 を執る一方、サウス・ウエスト・イングランド地方犯罪減少研究チームの 顧問を務めるなど政策実務に対しても提言を行っています。

ギリング博士の基調講演のタイトルは「地域を基盤とした犯罪減少対策: 犯罪及び秩序違反減少対策パートナーシップの現況」でした。

イギリスでは、1998年に犯罪及び秩序違反法
(CDA; Crime and Disorder Act 1998)が成立しています。ギリング博士 はその背景や概要などを説明してくださいましたが、今回はCDAの概要に ついて、そして、1999年に成立した少年司法および刑事証拠法についてご 紹介したいと思います。




1950年代半ばから1970年代にかけて、イギリスでは、警察の犯罪 統計において年平均5%の犯罪増加が見られ、犯罪学的研究は「何も機能 していない」ことが示されました。そして、1997年の内務省白書では、 「もはや言い訳は許されない」と記されました。
労働党のスローガンでは、「犯罪に厳しく」「犯罪原因に厳しく」と書か れ、1997年の白書では「少年の福祉が、公衆の保護・犯罪の処罰・犯 行の予防という目的と衝突するものと考えられるようになってしまい」、 「少年司法システムに対する国民の信頼が失われた」。しかし、「非行少 年の福祉を保護することは、再度の非行の被害から個人を保護することと 矛盾するものではない。非行の予防は、非行少年の福祉を促進し、かつ、 公衆を保護するものである」。「少年非行の予防こそが、鍵となる目的で ある:それは、少年と公衆双方にとって最大の利益である」と記していま す。

日本の現状は、まさに、「少年の福祉が、公衆の保護・犯罪の処罰・犯行 の予防という目的と衝突するものと考えられるようになってしまい」、 「少年司法システムに対する国民の信頼が失われた」というところにとま っていると思います。イギリスの例を参考にしつつ、前向きの一歩を踏み 出さなければなりません。

CDA37条では、「少年司法システムの目的」として、「少年司法システム は児童・少年の非行予防を主要目的とし、少年司法システムに関する職務 を執行するすべての者および団体は、この目的を考慮しなければならない」 としています。

また、同38条では、「少年司法政策の第一次責任者は地方自治体とし、地 方自治体は、警察および保護観察委員会または保健局と協力して、少年司 法サービスの有効性を確保しなければならない」と規定しています。少年 司法業務の主体を地方自治体に明確に規定しているところは特徴的です。

組織については、第39条で少年非行対策チーム
(Youth Offending Teams : YOT)を規定しています。これは、すでにロ ンドンで学んできた組織であり、この国会報告でもすでにご紹介ずみです。
設置主体は、地方自治体の機関で、構成は、保護観察官、公的ソーシャル ワーカー、警察官、保健機関の指名するもの、教育長の指名する者、その 他地方自治体の機関が適切と思料する者、とされています。
業務は、少年司法業務の提供の調整、少年司法計画(やはり地方自治体の 機関が作成主体となっています)に定められた職務、とされています。



少年非行防止のための処分としては、

(1)警察における処分

譴責および警告。警察官が証拠を有し、被疑少年が罪を認め、かつ前歴が なく、訴追しないことが公共の利益に反しない場合には、警察官は、裁判 所への送致を行わずに、譴責または警告を行うことができる。通常は、初 犯は譴責、2回目は警告、3回目は起訴となる。
警告を受けた者は、少年非行対策チームに付託され、または社会復帰プロ グラム(参加者を社会復帰させ、かつ参加者による再犯を予防することを 目的とするプログラム)に参加させられることとなる。

(2)裁判所による非行防止に関する命令

ア.反社会的行動命令
10歳以上の者が反社会的活動を行い、かつ、その後の反社会的活動によ り地域居住者を保護する必要がある場合には、地域カウンシルの申し立て に基づき、治安判事裁判所は反社会的な行動の禁止を命ずる命令を発する ことができる。

イ.養育命令(parenting orders) (注)ヨーロッパ視察に同行した警 察庁の少年課長によると、この命令の制度を作っているのはイギリスくら いだということで、大変注目されている。

少年に関連する他の裁判に際して、当該裁判所は、必要と認めた場合には、 一定事項の遵守を求め、親権者等に対しカウンセリング授業に出席するこ と等を命ずる命令を発することができる。

ウ.児童保全命令
10歳以上であったとすれば罪を構成すると思料される行為を10歳未満の 子どもが行ったり、そのような行為を予防する必要があるような場合など には、地方自治体の機関の申し立てに基づき、治安判事裁判所は、一定事 項の遵守を求め、子どもに対して監督官の指導下に置くこと等を命ずるこ とができる。

エ.地域児童外出禁止計画
地方自治体の機関は、10歳未満の子どもに対して、90日以内の所定の 期間中、午後9時から午前6時までの所定の時間内において、親権者など 責任のある者の管理にある場合を除き、所定の地域内の公共の場所への立 ち入りを禁止する計画を作成することができる。なお、この計画は、内務 大臣の確認によって効力を生ずる。

オ.無断欠席者の指定敷地等への移送
地方自治体の機関が児童を移送する指定敷地を指定した場合に、警察官が 所定の期間中に理由なく学校を欠席している義務教育年齢にある子どもを 公共の場所において発見したときには、警視以上の警察官は当該児童を学 校または指定地域に移送することができる。

(3)少年審判における量刑

ア.賠償命令
有罪宣告を行った裁判所が、被疑少年に対し、被害者その他当該財によっ て影響を受けた者と認定した者またはコミュニティ全体に対する賠償を命 ずる命令。

イ.行動計画命令
有罪宣告を行った裁判所が、被疑少年に対し、命令の日から3ヶ月間に行 うべき行動の計画、指導監督官による指導監督およびその指示の遵守に関 する事項について定めた行動計画命令を命ずる。定められる行動の内容と しては、指示された活動への参加、面談、出頭、指定場所への立ち入り禁 止、支持事項の遵守、被害者・コミュニティへの賠償等がある。

ウ.収容および訓練命令
わが国における少年院送致等に相当するもの。期間は最長2年間。



■1999年少年司法および刑事証拠法
(Youth Justice and Criminal Evidence Act 1999)



1.非行少年委員会への付託命令
少年裁判所または他の治安判事裁判所は、初めて有罪と宣告された18歳 未満の者について、刑罰が固定されておらず、拘禁刑が貸されていない場 合には、非行少年委員会に付託することができ、当該非行少年がすべての 訴因に有罪答弁をしたときは付託することを命じなければならず、一部の 訴因につき有罪答弁をしたときは付託を命じることができる。
当該非行少年は、付託命令により、少年非行対策チームに設置される非行 少年委員会の各会議に出席することを求められる。

2.非行少年委員会
少年非行対策チームは、非行少年に付託命令が発せられたときは、当該非 行少年のための非行少年委員会を設置しなければならない。非行少年委員 会の各会議は、少年非行対策チームの構成員1名および他の2名により構成 される。

3.非行少年契約
非行少年委員会は、当該非行少年による再犯の予防を目的とする行動プロ グラムについて非行少年契約を締結するよう努めなければならない。
当該行動プログラムにおいては、非行少年に対して、被害者や飛行の影響 を受けた者に対する賠償、被害者やその他の者との仲裁の会議への出席、 コミュニティにおける無償の作業やサービスを行うこと、教育施設・作業 施設への通学・通勤、特定の活動への参加、所定の場所または者からの隔 離等を求めることができる。

4.裁判所への返戻
契約に至らなかったり、契約が破られたときは、非行少年委員会は、当該 非行少年を裁判所に返戻付託しなければならない。







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