国会報告 その158(2003.9.16発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回(月曜日)発行しております




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国会報告(7/31〜8/9)




■衆議院青少年問題特別委員会視察報告(その5:ノルウェー3)




前回に引き続き、ノルウェーについてのご報告をします。ようやく視察報 告も最終回となります。



◆ソニア=イレーネ=ショリー 家族・文化・行政委員会委員長との懇談




ショリー委員長は、保守党に所属する54歳の女性議員である。
看護師として病院勤務をした後、1993年から国会議員となり、 2001年より現職。
家族・文化・行政委員会というのは、極めて広範囲の役割を担っており、 以下の3つの柱が中心となる。

1 子ども・青年のすべてについて担当。保育園、児童福祉施設、男女平 等、消費者、と、子ども家族省が管轄するすべての領域と言ってよいだろ う。
2 文化について担当。メディアを含むすべての文化関係。
3 国が保有する施設の管理。産業界における問題も扱っている。

子ども・青年のすべて、と言っても、青少年犯罪や教育はどうなのかと質 問すると、やはり、青少年犯罪は法務委員会、教育は教育委員会が主担当 となるそうだ。その場合、日本の国会のように、委員会が一緒になっての 連合審査という形をとるのか、と尋ねたが、政党政治がきちんと機能して いるノルウェーでは、政党の会合で党としての方針を決め、それを委員会 に持ってくる構造になっているそうだ。
7つの政党の代表者が週に1回会合を開き、各政党の意見を交換し、委員 長に報告する。大きな問題については、委員会の中にも小委員会が作られ る。特に重要な問題については、セミナー(公聴会)を開き、外部の意見 も聞く。このセミナーは公開で、参加した団体は委員会に対して意見を述 べることができる。

委員会では、各案件の担当者が一人決められ、責任を持ってその案件をフ ォローしていく、という仕組みになっているそうだ。
これを聞いただけでも、日本の国会との違いがよくわかる。
日本の委員会では、各党の議員がそれぞれの裁量で質問をするが、法案を どうするかということについては、質問や公聴会での意見に基づいて、と いうよりは、理事会で、むしろ政治的に決められる。公聴会の翌日にいき なり採決、などということも経験してきた。いかに日本の国会審議が形骸 化しているかということをよく示しているし、決定する場は別のところ (ほとんどの場合、政官業の癒着の中での官僚機構)にあるということだ。
ノルウェーでは、国会が国会としてきちんと機能している。政党も政策集 団としてきちんと機能している。比例代表制を主軸にした選挙システムの 良い点だと思う。

そんなノルウェーでの委員会は、「話し合って作り上げていく場」という ことになる。日本では委員会の議事録は公開され、そこでどれほど政府か ら言質を取れたかということが議員の質を決める。一方、ノルウェーの委 員会は主に非公開で、そこで政党間の協力の下、どれほどの法律を作り上 げられたかということが議員の質を決めるということだろう。「政府の姿 勢を質すための委員会」と、「法律を作り上げるための委員会」という大 きな違いがあると感じた。やはり日本の国会は立法という本来の仕事に関 して手を抜きすぎているということを改めて感じる。

子どもオンブードの役割の大きさについて委員長に質問すると、「子ども オンブードは重要な存在。言葉は悪いが、子どもたちの番犬として機能し ている。決定している政策を監視し、子どもたちの代弁者としての役割を 果たしている」と答えた。「でも、最終的に物事を決めるのは子どもオン ブードではなく国会です」とも。

やはり小党連立の少数政権であるため、政府の力が弱く国会が強いのだと 委員長も言っていた。
国会議員のうち38%が女性。政権の半分が女性。
女性に選択の自由を与えることが重要、と委員長も言っていた。
どうも、日本では保守勢力は女性に画一的な生き方を押し付けるもの、リ ベラル勢力は女性に選択の自由を与えるもの、というふうに考えられてい るが、ノルウェーでは、むしろ選択の自由を尊重するのが保守勢力で、リ ベラル勢力は、時代はまだ選択の自由といえる段階まできていない、とい うことを主張しているようだ。




◆ホーレ 子ども家族省 家族政策・男女平等局長との会談



家族政策と男女平等の責任者がホーレ局長(女性)である。先日の埼玉県 知事選に出馬した、日本の内閣府男女共同参画局長だった坂東真理子さん のような存在ということだ。
本当に元気いっぱいの女性で、男女共同参画に向けての元気をさらにいた だけたような気がする。
それにしても、これほどやり手の官僚でも、ノルウェーは夏休みが長い。
私たちに会ったときは、休暇中の時間を割いてくださったのだが、「今ま で4週間半、海で泳いでいた」と言っておられ、実際に真っ黒だった。ま だ休暇は続くらしい。

1950年には、ILOの男女平等賃金条約が批准され、1969年には男女 平等法が作られた。
ノルウェーでは、過去100年の間に結婚などの法律が男女平等の方向に 改正された。
1885年には女性の権利を守るための団体ができたが、ブルントラント 首相(初の女性首相)が実現するまで100年以上かかったことになる。 ブルントラント政権では、40%以上が女性閣僚となった。

男女平等法は、ノルウェー社会すべて(宗教以外)に影響を与えてきたし、 労働環境法などとも密接な関係がある。男女平等法の主眼は、差別をなく すことであり、教育や性別に基づく差別をなくそうとしている。また、育 児などにおいて、男性にも女性と同じだけの権利を与えようとしている。

日本から見ると男女共同参画の先進国であるノルウェーだが、ホーレ局長 は、「まだまだ十分ではない」と言い、例えば、と言って、大学教授にお ける女性の割合は「まだ」12〜13%だし、民間企業の役員における女 性の割合は「まだ」7%、保育士における男性の割合は「まだ」10%以 下、とその根拠を挙げられた。

ノルウェーでは、現在、一般企業の役員に40%クオータ(いずれの性も 40%を下回らない)を義務づける新法が提案されており、国会で審議さ れているそうだ。ホーレ局長は、高い確率でこの法案は成立しそうだと言 っておられた。もちろん様々な議論はあるが、「企業の製品を買う人の半 分は女性ではないか」という意見が強く出されているそうだ。ちなみに、 国の機関ではすでに40%クオータが実現している。

また、ノルウェーには、男女平等オンブードがあって、男女平等法の実行 状況をチェックしている。1つの事務所で10名が勤務しており、全員が 法律家であるとのことだ。一年間に80万件の相談が寄せられるそうだが、 その多くは労働関係で、賃金や出産にかかわる女性からの相談だそうだ。 でも、ここのところ、パパ・クオータ制について、男性からの相談もある そうだ。男性も男女差別に敏感になってきたということだろう。

このほか、ホーレ局長からはDV(ドメスティック・バイオレンス;家庭 内暴力)についてなどいろいろな話をうかがったが、最後に私は、最近の 日本での揺り戻し現象を踏まえて、日本の官僚の方へのアドバイスはない か、とリクエストした。ホーレ局長は、「何と言っても出生率の問題に着 目すること。ノルウェーは男女平等を進める中で出生率を回復してきた。 また、女性の可能性を追求することは、国際競争力も高める。男女平等教 育を子どもにきちんとすることが重要だ」とのアドバイスをくださった。



◆ドゥールム法務大臣との懇談



ドーヴォイ子ども家族大臣との懇談がかなわなくなったため、河合大使の ご配慮で、ホーレ局長、ヘランド局長も骨を折ってくださり、法務大臣と の懇談が急遽セットされた。今回の視察では、重要な方たちにいろいろと お会いしたが、現職大臣とお話しするのはこの機会だけだったので、大変 ありがたく大使のご厚意に感謝しているところである。

ドゥールム法務大臣(男性)は、自由党の議員。自由党は三党連立政権の うちの一党だが、所属議員3名がすべて入閣しているという恵まれた政党 である。

なぜこんなことが可能なのかというと、その鍵は、ノルウェーの政権が少 数与党であることにある。国会における政権の安定を少しでも増すために、 3名を入閣させてでも、自由党の議席がほしかったのだということになる。
子どもオンブードのときにも感じたが、これほどまでの少数与党というの は政治の緊張感をもたらす効果があると思う。政府が提案したからそのま ま国会を通過するということではなく、政府提案のものであっても国会を 通すためには努力が必要だ。国会が国権の最高機関としてきちんと機能し ているといえる。日本から見れば大変羨ましい話である。
アメリカやイギリスのように二大政党制を作ることも政治の緊張感を生む ということは知られてきたが、北欧のように、多党連立政権でも、与党の 絶対多数というようなことでなければ、同じく緊張感が生まれる(かえっ て国会としては機能が大きくなる)ということになる。

さて、ドゥールム法務大臣とは、少年犯罪の問題について意見交換をした。
彼は現場主義で、その日も、現場に行ってきたため約束の時間に遅れたの だと詫びていた。
ノルウェー全土の学校に足を運び、子どもたちが何を必要としているか、 どんなサインを出しているかを見ることにしているそうだ。
「ノルウェーには国のものはない。すべて市民のものだ」 「人間は誰でも間違いを犯す。一度犯した過ちを繰り返さなければ良い、 というのが私の基本的な考え方だ」と、政治家らしい演説も聞けて、大変 有意義だった。




◆ロンメダーレン保育園視察



72名の子どもたちを保育している保育園。もちろん、この国も、母親が 働いていようがいまいが保育園に入ることができる。母子家庭など緊急性 の高い世帯については、優先的に入所できる仕組みになっている。
この保育園の特徴は、アウトドア活動を重視していること。
72名の子どもが24名ずつの3クラスに分けられている。各クラスより 6名ずつが集められ、計18名がアウトドアクラスを3週間ずつ経験する、 というローテーションになっている。
さすがに外気温がマイナス10度以下になるとアウトドア活動はしないそ うだが、それ以外は、3ヶ月に3週間は屋外で保育を受ける、ということ になる。
保育園の建物から少し森の中に入っていったところに、食事をとったりす るためのテントとトイレのためのテントが張ってあり、その周りの木々に はロープなどが渡してあって子どもたちが自由に遊べるようになっている。 私たちを案内してくれた5歳くらいの子どもも、すぐに野いちごをとって 私に食べさせてくれた。
さすがノルディックスキー発祥の地。子どもたちが自然と共生していける ような環境を小さいころから提供しているのだ、と感心した。
大使から聞いた話だが、ノルウェーの人たちは長い冬の夜をどんな気分で 過ごしているのだろうか、と思いきや、仕事が終わってからナイタースキ ー(それもクロスカントリー)を楽しむのだそうだ。10月ごろ、雨が降 る時期は気分が暗くなるが、本格的な冬になると楽しくて仕方がないとの こと。もちろん夏は夏で、夜中まで明るく屋外で楽しい時間を過ごせるの で、こちらも楽しい生活だそうだ。ほとんどの人が、海の家か、山の家か、 ヨットを所有しているらしい。家庭を大切にし、魚を食べ、スポーツを楽 しんでいるのだから、ノルウェーの人たちは健康状態が良いわけだ。

この保育園には保育士が16名おり、障害児も普通に統合保育をしている そうだ。




◆ピーターホフ青少年ホーム視察



オスロの児童福祉施設の一部として機能している。家庭で虐待を受けた子 どもなどを収容しており、8部屋あるうち、現在は5名の性的虐待を受け た女の子ばかりが暮らしている。他の施設は男女混合だそうだが、この施 設では、性的虐待という特性も考えて、女の子だけにしている。スタッフ は10名おり、一人の子どもを2交代で見ている、ということになる。

このホームでは、施設内の子どもだけでなく、近隣の学校や放課後児童ク ラブの子どもたちについてのケアも行っている。家庭にいる子どもたち、 軽度の犯罪を犯した子どもたちのケアもする。アメリカの研究結果に基づ いたケアの手法をとっているそうだ。
子どもたちはこのホームに半年から数年間住み、通学もする。ホームでは トラウマ(精神的外傷)の解消に注意を払う。目標は子どもの社会復帰。
それは、家庭復帰であったり、独立であったりする。対象年齢は12〜18 歳とのこと。12〜13歳程度の子は家に帰ることが多いし、15〜16歳に なるとそのまま独立して社会に出ることが多いそうだ。
子どもがホームに滞在するための費用は市が負担する。
全員が個室におり、職員が入るときには必ずノックするなど、プライバシ ーへの配慮が払われている。
明文化された規定はないが、建物の中で暴力を振るわない、飲酒しない、 などの暗黙のルールがある。

18歳問題について質問してみた。
すると、この施設では18歳以上の子は預からないが、ほかには18歳以上の 子どもを預かる施設もある。また、その施設が所有しているアパートで生 活させるなどの支援を通して、自立を支えるそうだ。
「その子にとって最良の環境を提供するのが当たり前でしょう?」という ような不思議な目で見られた。
日本の児童養護施設のことなどを話すと、悲しそうな顔をされた。



◆河合大使



河合大使主催の夕食会が大使公邸で開かれたが、大使のご配慮で、ちょう ど休暇で帰国していたフォッサイドブローテン在京大使夫妻、アイラート セン日諾(諾=ノルウェー)協会会長夫妻、ルンネ外務省日本担当官が参 加。有意義な会になった。
「友達を作ることが自分の仕事」との信念を持つ河合大使は、知的好奇心 が旺盛で、現場主義で、気さくで、栃木県民として誇りにできる人物だと お見受けした。短い滞在ではあったが、本当に温かいお心遣いを随所でい ただき、日本の外交の一つの目標像を見た思いがした。
なお、今回改めて栃木県民としてノルウェーを訪問してみて、栃木とノル ウェーは、緑の深さなど似た雰囲気があると感じた。大使のご縁もあるし、 今後、栃木とノルウェーの交流がますます深まると良いのだが。




★バスツアー無事終了
  〜バス20台、800名の皆さまと楽しい1日〜



参加いただいた皆さま、
大変ありがとうございました。
参加できなかった皆さまも、
次回はぜひ!!


 9月7日(日)、水島広子と歩む会の第3回目のバスツアー「初秋のコ スモス街道と旧軽井沢の旅」が行われました。
前回2月のバスツアーは5台で行われましたので、今回は10台以上を目 標に、取りまとめ役さんを中心として、一生懸命に参加者を集めていただ いたのですが、なんと予想をはるかに上回る20台・800名という方々 のご参加をいただきまして、盛大に開催することが出来ました。
 まずは、この場をお借りいたしまして、参加いただいた皆さま、参加者 を集めてくださいました取りまとめ役の皆さまに、心より御礼申し上げま す。
 また、当日の進行役とリーダーを務めてくださったバス長さん、安心で きる走行に努めてくださった運転手さん、行き届いたサービスにご尽力く ださったバスガイドさん、本当にありがとうございました。
 参加者の皆さまには、行き届かない点も多々あったかと思いますが、今 後の反省材料とさせていただきたいと思いますので、どうかご容赦くださ い。
 当日は、朝方は雨模様でしたが、幸い、旧軽井沢に着いた頃には雨も上 がり、事故も体調を崩す方も出ることなく、皆さまと意見交換をしたり、 記念写真を撮ったりと、楽しい1日を過ごすことが出来ました。
 次回は、さらに充実したバス旅行にしたいと考えております。
どうか、 今回ご参加くださった皆さまは、さらにお一人でもお二人でも、お誘いい ただきまして、また、今回来られなかった皆さまも、次回はぜひご参加い ただきまして、さらに盛大で楽しいバス旅行にしたいと思いますので、ど うぞご協力をよろしくお願い申し上げます。






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