国会報告 その156(2003.9.1発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回(月曜日)発行しております




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国会報告(7/31〜8/9)


★7月31日(土)〜8月9日(土)




■衆議院青少年問題特別委員会視察報告(その3:ノルウェー1)




最終視察国ノルウェーは、今回、私が視察を最も強く希望した国です。
個人的には12年前に旅行したことがありますが、大変すばらしい国だと 感じました。そして、政治を学ぶにつれて、そのすばらしさの理由が政治 にあるということを知り、ぜひ政治家として視察に行きたいと思っていた のです。
ノルウェーでは、河合正男特命全権大使が栃木県今市市の出身ということ もあり、本当に充実した視察のための配慮をしてくださいました。そして、 思ったとおりすばらしいノルウェーの政治を垣間見ることができました。
ノルウェーの政治については、「知っているつもりになっていた」ことも 多々ありましたが、実際に行ってみると、案外日本と同じような悩みを抱 えていたり、あるいは、思っていたよりもはるかに先を行っていたり、と、 いろいろな発見がありました。
特に、私が訴えてきた「子ども省」のヒントになる情報を得てきましたの で、今回は、2回に分けてご報告します。
前半は、特に、子どもオンブー ドについてご報告します。




子どもオンブード(オンブズパーソン)


 私も今まで繰り返し訴えてきていることだが、子どもたちは、参政権も 持たず、代弁者もいない存在である。その状況を克服するための努力が、 「子どもオンブード(オンブズパーソン)」制度である。子どもオンブー ドは、子どもの権利を、国・国会・地域に対して代弁する存在として位置 づけられ、法律によって規定され、絵権限を与えられている。


◆ノルウェーが世界初の子どもオンブード◆


私たちが訪問したときには、子どもオンブードのヴォーゲ氏は不在だった が、オンブード代理のホーネス氏から詳しい話を聞くことができた。
 ノルウェーは、世界で初めて、1981年に子どもオンブードを設立し た(1975年にはノルウェー労働党婦人会議で子どもオンブード制度の 確立が採択されている。そのときに、子どもオンブードの役割を、「子ど もの法的立場に関する情報の提供、子どもの利益・権利の保護、子どもに 関する法的紛争の解決、家庭や施設での子どもの権利の強化、居住環境お よび居住地区計画立案の際の子どもの利益の保護、子どもと他世代との性 別等にかかわらない協力・平等・尊敬の促進、子ども虐待容疑がある場合 の起訴を遂行する機関」と規定した。)。
そして、この動きは、その後各 国に波及して行った。ホーネス氏は「ノルウェーの輸出品目は、石油、魚、 そして子どもオンブードだ」と胸を張っていた。


◆子どもオンブードは完全に独立した機関◆


 子どもオンブードは、子ども家族省の管轄下に置かれる独立機関である。 この独立性は高く、政治的にも中立であり、政党に偏らない立場で政治的 な議論に参加している。国会や政府は、子どもオンブードの活動に指示を 与えることはできない。法的には子ども家族省の下部機関だが、子ども家 族大臣ですら影響を与えられない独立性が確保されている。時には子ども 家族省と政策的に対立することもある。

子どもオンブード(1名)は、閣議で決定、任命される。その任期は4年 で、8年を上限として再任可能。現在の子どもオンブードは、トロン=ヴ ォーゲ氏で、顧問、秘書等15名が子どもオンブードの活動を補佐する。 各顧問は、いじめ、ネット系犯罪等の専門分野を担当している。

子どもオンブードは、国会の委員会にも積極的に協力し、子どもたちの代 表者という立場から国会に影響を与えている。研究機関とも協力し、メデ ィアを通じて広報も行う。


◆子どもオンブードが実際に活躍した例◆


数年前、性的虐待の経歴のある人は、5年間は保育園で働けないという政 府の法案が提出された。これに対して、子どもオンブードは、5年に限ら ず一生働けないようにするよう提案した。大人の職業選択の自由よりも子 どもの人権を尊重したのだ。
最終的に、国会は子どもオンブードの提案どおりに決定した。
こうしたことが可能なのは、少数与党政権という不安定な政治状況も大き いと思う。政府が提案したことであればなんでも国会を通過してしまう与 党絶対多数の日本の政治の貧困をここでも感じる。

また、子どもオンブードは、子どもに関するすべての施設に自由に入るこ とができ、子どもに関するすべての書類に目を通すことができる。
やはり数年前、ノルウェーの難民政策に関して、子どもオンブードが活躍 したことがあった。子どもオンブードは、法務省の文書に目を通し、入国 を拒否された人たちについて、子どもに関してどのような配慮がなされた かを調べた。
法務省の文書には、子どもに関する記載はなかった。
そこで、子どもオンブードは大きな公的会議を開き、法務大臣も出席のも とで、法務省が法律を破っていると主張した。法務大臣は謝罪し、この点 については改善が見られた。
他の機関の文書(子どもオンブードは子ども家族省の管轄下にあり、法務 省は他省庁ということになる)を読むというのは、一般には許されていな いことであり、子どもオンブードの権限の強さを物語っている。


◆子どもオンブードの主な職務◆


子どもオンブードは、男女平等オンブード等と異なり、ある特定の法律の 遵守を監視するのではなく、子どもに関するすべての分野を対象としてい る。子どもオンブードの主な職務は、子どもオンブード法に定められてい るが、1998年の法改正により、国連児童憲章に基づいた規定をノルウ ェーが遵守するよう監視する義務が加えられた。子どもオンブードは、具 体的には、学校環境、犯罪、子どもの商業化、ネット系犯罪、別居・離婚 する両親への助言等を担当するほか、年次報告書の作成も義務づけられて いる。

子どもの代弁者であり続けるため、子どもオンブードは、子どもたちから の情報を収集すると同時に、子どもたちへ情報を提供する。
子どもオンブードは、郵送、電子メール等の手段で届けられる連絡のすべ てに返答することが義務付けられている。連絡したのが子どもである場合 は1週間以内に、子ども以外の場合には1ヶ月以内に返答することとされ ている。また、子どもオンブードが処理しない場合、その決定の根拠を連 絡することが定められている。なお、子どもからの連絡は、参考のため、 国会にも報告される。


◆子どもオンブードにできないこと◆


子どもオンブードの権限は限定されている。
他の機関の決定を覆すことはできない。裁判所の決定も覆せない。
また、裁判で係争中の事案、警察で捜査中の事案にもコメントできない。
子どもと保護者との個別的具体的な案件を処理することができず、決定権 も持たない。案件を自らが処理できない場合、子どもオンブードは、情報 提供者に対して、適切な支援機関を紹介する。

個々のケースに直接関与することはできないが、そこから得られた教訓か ら法改正に向けての政策立案をする、というふうに機能している。


◆子どもオンブードに関する法律(主な点のみ抜粋)◆


第1条 目的
この法律は、社会における子どもの利益を保護することを目的とする。

第3条 子どもオンブードの職務
子どもオンブードは、公・民にわたる領域で子どもの利益を保護すること を職務とし、子どもが成長する環境の変化に注意を払う。
子どもオンブードは、特に、以下のような職務を遂行する。
 1.子どもオンブードは、自らのイニシアチブで、あるいは、ヒアリン グ機関として、あらゆる分野での計画(立案)
および報告(作成)に おいて、子どもの利益を保護する。
 2.子どもオンブードは、子どもの利益の保護に関する法令が遵守され ているかどうか、つまり、ノルウェーの法律および行政が国連の子ど も憲章に基づいた義務を果たしているかどうかということに注意を払う。
 3.子どもオンブードは、子どもの法的保護を強化する対策を提案する。
 4.子どもオンブードは、子どもと社会との問題を解決あるいは防止す る提案を対策化する。
 5.子どもオンブードは、子どもの権利および子どもが必要とする対策 に関する十分な情報が公・民双方に提供されることに注意を払う。
子どもオンブードは、自らのイニシアチブで、あるいは、連絡に基づいて、 職務を遂行できる。子どもオンブード自らが審査するための十分な根拠が その連絡に認められるかどうかを判断する。

第4条 機関への接触および情報義務等
子どもオンブードは、公立および私立の子ども関連機関に自由に出入りす るものとする。公的機関、公立および私立の子ども関連機関は、守秘義務 に拘束されることなく、子どもオンブードに対し、この法律に基づく子ど もオンブードの職務を遂行するために必要である情報を提供するものとす る。第3条2に基づく子どもオンブードの職務を遂行するために必要であ る情報は、守秘義務に拘束されることなく、他の機関や関係者からも提供 を求められるものとする。この条項に基づき情報の提供が求められる場合、 議定書および他の文書の提出も求めることができる。

第5条 子どもオンブードからの発言
子どもオンブードは、この法律および子どもオンブードへの指示書に基づ き、子どもオンブードの管轄領域内の状況に関する意見を述べる権利を有 する。子どもオンブードは、自らが誰に対して発言を行うのかを決定する。


◆日本にも早く子どもオンブードを◆


このほか、ホーネス代理からは、政治と子どもの関係について、私が日ご ろ日本で問題だと思っているのと同じような問題意識をいろいろと話して もらった。

子どもオンブード設立時には、親の権利が侵害されるのではないか? 他 の機関が責任転嫁をするのではないか? という議論がノルウェーでもあ ったそうだが、これらの懸念は時代とともに、そして、子どもオンブード の実績とともに、減少していったそうだ。
日本も子どもの権利を最優先に考える独立機関の設置を国連から勧告され ている。ノルウェーよりも20年以上遅れるが、一刻も早く子どもオンブ ードを作らなければならない、と改めて感じた。

ノルウェー後半は、次号でご報告します。






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